3-5

 モンストピアの中心に存在する病院施設、その地下三階にそれは存在する。それは島のエレベーターや階段、地下鉄道などあらゆる方法でアクセスが可能でフロアは大勢の人々でにぎわっていた。どちらかといえば落ち着いていた環境であった地上と異なり、ここは猥雑で、患者衣よりも正装の身なりの人間の姿が多く雰囲気は島の外の社交場に近い。

 怪人闘技場、通称コロシアムは満員御礼の様相だ。

「すっげー、お姉さん見てよ。このあたりウォリアータイプの人が多いよ。かっけー」

「こら、人に指差さないの。とりわけライザーはダメ。外の世界では気にする人もいるんだから」

 タケルを制する一方で、アイヴィーもまたフロアに多くのウォリアータイプがいる事に驚き、どうしても腕時計型ライザーを目に入れてしまう。しかも驚いた事に彼らは島外と異なり腕をまくるなどしてそれを見せびらかすようにしている。ライザーは奴隷の鎖。アイヴィーは自分の首元がきちんと隠れている事を確認し、人からも見られていないか周囲を見渡した。

 匂いを発していないだけでこの場にはおそらくフェーズ3以降の怪人が数多くいる。怪人が匂いを発するのは変身の瞬間から。人間態では外見上普通の人間と変わらない。アイヴィーはモンストピアで怪人の姿が少ない事を疑問に感じていたがここに来てその疑問が解消した。多くの怪人はこのフロアに集中している。

「で、コロシアムって事は怪人を見世物にしているって事ですか?」

 アイヴィーは不愉快そうに顔をゆがめるタケルの担当医に質問する。彼は潔癖症なのか、最後までタケルがこのフロアに行く事に反対したのだが、コロシアム観戦のチケット代はバカにならない。関係者としてレートを知っている故か、最後にはタケルの父親の愛情を尊重する形でしぶしぶ付き添う事にした。曰く「実際にフェーズ3以降の患者の動きを見れば治療に役立つかもしれない」と、絞り出すように自分を納得させていた。

「見世物……っていうのは正確じゃありませんが……ノインさんは何故怪人が暴れるのかをご存知ですか?」

「何故……暴れる……? それは、自分たちの生きる権利を主張するためじゃ……」

 アイヴィーが今まで対峙してきた怪人たちはデモ隊を守護したり、自分たちも前面で主張したり、そこには生活に根差した欲求があった。生きるために暴れるのが怪人でそこに理由があるなんて考えたことは無い。それゆえ彼女は医者の質問に呆気にとられる。

「確かに、外の世界ではそうでしょうね。怪人が生きるためには変身した方が手っ取り早いですから。

 しかし最新の研究では異なります。そもそも患部は人類の進化の発展途上にあると考えられています」

 進化のくだりで彼女はノヴァの顔を思い浮かべた。医者以上に顔をゆがめそうになるがそれを何とか堪える。

「? 話を続けます。フェーズ2の患者は患部と基の肉体が上手く適合せず、部位を満足に動かせるようになるには天性の才能か、リハビリが必要です。私もここまで動かせるようになるのに五年かかりました」

 医者は二人の前で再びマジックハンドを自由自在に動かし始める。相変わらず原理は分からないが、それは複雑なのに滑らかで、人のなせる動きでは無かった。

「そんな不自由であるはずだと思われていた部位を全身に持つ者が現れます。後天性変異病が怪人病と言われるようになった原因、怪人の登場です。

 僕たち患者にとって部位がある生活は当たり前のものです。そこに理由はありません。多くの健常者も五体満足で当たり前という意識がありますから。怪人の場合、この意識が自身の怪人態の状態にシフトします。これは医学と言うよりもどちらかといえば心理学的な問題ですね。怪人は変身して進化した自分の能力を発揮させないとストレスを感じるんです。外の世界では色々理由を付けて正当化していますが本質は違います。んです。

 もし怪人犯罪を減らしたいと言うのであれば怪人態でも暴れられる設備や制度、環境を構築するべきなんですよ。そしてコロシアムはれっきとした医療行為です。いくら金持ちから資金を得たいからって……日常の営みを興行にするべきではないのに……」

 医者のマジックハンドがグラリと垂れる。どうやら彼は本気で憤っているらしい。

 そんな彼を見てタケルの表情が曇って行く。視線はアイヴィーに注がれ、悪いことをした子供のような半べそを浮かべはじめる。

「良く分からないけど……俺って悪い事している……?」

 アイヴィーは医者の露骨な態度を大人げないと心の中で罵った。確かに彼の主張ももっともだと納得する部分はあるが、タケルはあくまでヒーローショーのようなものとして勘違いし、大好きな特撮を見るのと同じ気持ちでここにいるのである。ノヴァ同様、アイヴィーは研究者のどこか自分の世界に引きこもっている感じが好きでは無い。

「大丈夫よ。売り物にしているって事はみんな見て欲しくて営業しているんですもの。お父さんがせっかく用意してくれたチケットよ。きっとタケルが楽しむ顔を見たくて買ったと思うわ。ほら、売店でホットドック売っているわ。あれでもつまみながら楽しみましょう」

 タケルの顔に少し笑顔が戻る。アイヴィーはお金を握らせると人数分のスナックを買って来るようにお使いさせた。そしてまだ何か言いたそうな医者に対しては黒山羊の如く殺気を込めた目線を送って黙らせる。効果はてきめんで彼女は初めて自分が特殊な訓練を受けてきた事に感謝した。

「暴れないと健康でいられない……か」

 この感覚はおそらく人工怪人には存在しない。最も普及しているウォリアータイプはライザーによるホルモンバランスの調整で、アイヴィーのキメラタイプもライザーにインジェクターによる薬品反応で細胞を活性化させて怪人態に変身する。中には己の感情のみで変身できる人工怪人もいるらしいが、アイヴィーの記憶が確かならその手のは怪人犯罪者として兵隊から除かれる。ライザーは奴隷の鎖。その言葉を反芻してアイヴィーは自嘲気味に笑う。なるほど人工怪人は理性で変身するかもしれないが、それは人間の管理下にあると言う意味での話だ。あの世界はつくづく人間を中心に回っている。

「お待たせー」

 タケルの言葉で彼女は現実の世界へと戻る。少年の両手は大きなビニール袋二つで埋まっていた。

「いや、買いすぎでしょ。それ三人分よりかなり多いわよ」

「え? ? 俺達はじゃん」

 アイヴィーの背に悪寒が走る。ここまでの道のり気配がしなかったゆえに油断していたが彼女の鼻は二人の臭いを嗅ぎ取っていた。

「おータケル、お使い偉いな。ワシが渡した小遣いちゃんとつかえたようじゃな」

「………‥な」

 振り向くと大学生風の年齢へと変身したクロウと、女王の姿があった。彼女はそうするのが当然と言わんばかりにアイヴィーに近づきジャケットの裾を引っ張る。

「すまんすまん。お客様に営業周りをしていたら合流が遅れた。いやー金持ちは話が長くてたまらん。いくら相槌を打ってもどんだけ自慢話をしてくるやら……あいつらどれだけ自分にポジティブなんじゃ」

 いや合流する約束なんてしてねぇよ! アイヴィーは富豪相手にキッチリと着込んだクロウ制服姿を台無しにしたかったが、そんな事をしても無駄だと自分を抑える。バックに女王がいればクロウ含む多くの人々が彼女に協力しようとするだろう。それだけ彼女はこの島で慕われている。伝えていないはずのコロシアム観戦だってどこからか情報が漏れてもおかしくない。アイヴィーは観念して女王に袖を握らせるままにした。

 合流して五人になった一行は観戦席へと座りビニール袋から自分の分のホットドックとコーラを手にくつろぎ始めた。コロシアムの構造は古式ゆかしいコロッセオ同様、闘技場を中央に、それを取り囲むように観客席が広がっていた。闘技場と観客席の間には驚くべき事に仕切りが存在しない。臨場感を出すためなのか先頭の席と闘技場の間はすぐ間近であり、攻撃に巻き込まれたらひとたまりもない。一体何を考えたらこんな造りになるのかアイヴィーは理解できなかった。しかもそのようなスリリングな席に座るのはあろうことか裕福そうな身なりをした富裕層である。刺激には程度があると日々体感するアイヴィーにとってその光景は目に毒でしか無かった。双方共にあまりにクレイジーだ。

「レディースエンドジェントルメン! 皆さん大変長らくお待たせしました。本日のコロシアム、いよいよ開催です」

「ホントここではキリがないわ」

 ストレス性の空腹を満たすべく。アイヴィーは気分転換にまずはコーラを飲んだ。シュワシュワと爽快な液体が喉を満たし――

「最初の出し物は秘密結社・機関の元スパイ二人組による怪人スパーリングです!」

「げっほごっほ……‼」

 盛大にむせた。

「お姉ちゃん大丈夫⁉」

「ごひっ……うっ……ええ……」

 耳にした単語が幻聴ではないかアイヴィーは闘技場へ視線を送る。しかし彼女の期待は裏切られた。この匂い、あの怪人態。間違いない。彼らは自分よりも先に派遣されたはずの機関側のフェーズ4だ。

 タケルと女王の双方から背中をさすられ落ち着きを取り戻すどころか背中に冷や汗をかき始めるアイヴィー。コーラを持つ左手もかゆみが強まる。何度見ても結果は変わらない。二人は間違いなくアイヴィーがノヴァの資料から記憶した機関の怪人だ。

 二人は鍛え抜かれた怪人態で抜群の模擬戦を披露している。拳を打ち合い、蹴りを放ち、能力で牽制を仕掛ける。彼らの動きの恐ろしいところはどれだけ見た目に派手な攻撃をしてもその余波を客席ギリギリで維持していると言う所だ。野良の怪人では出来ない訓練された能力の使い方。ここまで能力を扱うには特殊な機関に所属してじっくりと鍛えなければならない。それはモンストピアで身につけたのかもしれないし、機関で身につけたものかもしれない。二人の狙いが急所に集中している所からおそらく後者だろう。

 アイヴィーは言葉が出なかった。二人が自分たちの元の身分を公表した事も、女王が勝手に彼女の手からホットドックを奪って口に運んでいる事もどうでもいい。彼女が驚愕したのは二人が戦闘中だと言うのに笑顔で打ち合っているという事実。それがどうしても受け入れられないのだ。

 怪人態になるという事は命のやり取りをするという事だ。自分は機関のバックアップの下相手に対して不殺の手加減を行うことが出来るが、本来であれば怪人同士が戦えば外の世界では相手を再起不能にするまで叩きのめすのが通常である。

「続きましては剣人イクスによる剣舞をご覧ください」

 役者が入れ替わると同時に闘技場の地形が変形する。すらりとした顔立ちのイクスが射撃場で利用されるような人型の案山子と共に姿を現した。

「変身」

 イクスの全身が蒸気に包まれ、続いて衝撃波を放つ。ハッカ飴の刺すような匂いを広げるとそこには全身を薄く尖らせ、鈍色に光る素肌を広げた怪人彼の姿があった。頭部、手足、全身が刃物状となった彼は手足を巧みに使って近くの案山子を切り刻み、能力を使って直線状に存在する案山子を斬撃の波で貫くなどの曲芸を披露した。

「……」

 芸を終えるとイクスは怪人態のまま観客の前で堂々とお辞儀をした。周囲も光輝く怪人に対し「ブラボー!」と笑顔で惜しみない拍手を送っている。

「続いての演目はかなり刺激的。ウォリアータイプの皆さんによる怪人ラグビーです」

 再び中央の舞台が変わる。そこには小型のラグビー場のような舞台と共に甲冑の騎士風の姿をしたウォリアータイプの怪人たちが十四人、二チームに分かれて仁王立ちしていた。威圧的な兜のような頭部もグラウンドに立てばそのミスマッチに笑いを誘う。しかし試合内容は至って真剣だ。ウォリアータイプはフェーズ3ゆえに特殊な能力を持っていない。それゆえに成人男性よりも二回りも大きい怪人が全身を使ってグラウンドを駆け、体をぶつけ合い、スクラムを組む様は前二つの演目に比べると地味だが、しかし圧倒的な迫力を放っていた。

「!」

 会場は怪人がスポーツマンシップに則って試合する様子に熱狂し始めた。アイヴィーも思わず心の中で「頑張れ」と叫び選手が得点する度に手を突き上げた。

 コロシアムと聞きアイヴィーは医者同様趣味の悪い見世物ショーかと思っていたが実体は違う。彼らは自分の怪人態を、自分の全身を使って観客に訴える表現者だった。彼らの能力が人を傷つけることは無い。観客すれすれに寸止めを行える程己の能力に精通し、いかに魅せるかを研究した動きをアイヴィーは知らない。彼女が怪人と対峙する時は決まって命のやり取りをする。そこにはただひたすら破壊という一方通行なコミュニケーションしか存在しない。ただひたすら己が生き残るために戦う外の怪人とは別の、縁者としての怪人の姿にアイヴィーは心が揺れ動いていた。

「こうやって怪人たちを世間の目に晒すのは酷だと言う者もおる。しかしのう、ワシは見世物もアリだと思うんじゃよ」

 クロウの目がアイヴィーを捕える。東洋系の黒真珠のような瞳は興奮で輝き、彼の精神状態に合わせるようにキッチリと決めた大人びた姿は最初に出会った時のわんぱくな少年の姿へと変化してゆく。

「ワシら怪人にとって怖いのは姿が違うからといって排除される事。でも怪人にとってあれらの姿は自分自身の個性なのじゃ。誰だってそれを認められたい。あるがままの姿でいたい。しかし、今はまだ世の中が怪人を受け入れる容量を持っておらん。

 だったら発想を変えてフリークショウをやってしまえばいいと思ったんじゃ。登場する演者が全員怪人で、しかも自分たちに害はない。であれば怪人を見に来ようと健常者が集まる。

 怪人の方も普段から能力を発揮したいと欲求不満じゃ。そこで人間を傷つけないように能力を制約させると自分たちで自然と工夫して曲芸が出来るようになった。

 能力を発揮することでくすぶる不満を解消し、演者として観客を沸かせることで健常者とコミュニケーションが取れ、収入を得ることで自分の姿と技に自信が持てる。コロシアムはパッと見人間でもフェーズ2の患者以上に爆弾を抱えがちな怪人たちの避難所なのじゃよ」

 褒めて良いぞとクロウはどや顔でアイヴィーに迫る。しかし彼女はそれをスルーしてホットドックにかぶりついた。

「そこは褒める所じゃんよー……」

「…………えらいえらい」

 代わりに女王がクロウを撫でる。しかし、その様子をアイヴィーは見ない。彼女の視線は真っ直ぐに、闘技場の中心に注がれていた。

 彼女はそこに広がる風景を夢だと思った。誰もが怪人の動作にポジティブに興奮し、熱狂する。そこには自分の体が陥没したり、切り刻まれたり、強烈な一撃でバラバラに弾けることなない清潔な舞台が広がっている。そこでは怪人はヒーローだ。誰も悪役はいない。人を喜ばせる限り誰もが良い怪人でいられる場所――

「この偽物!」「お前は怪人俺達の味方じゃないのか!」「良い働きをした。アイヴィー、さすがは私の傑作だよ」

「吐き気がする……」

 左腕にかゆみが走り、それはしびれへと変化して彼女の制御を失わせた。シュワシュワと泡立つ音と氷を砕く音が合わさり紙コップのコーラは無残に流れ落ちた。

「ごめんなさい……ちょっとだけ気分が悪いわ。トイレに行ってくる。職務放棄で落ち着かないけどタケルを見ていてくれない。大丈夫、五分で元に戻るから」

 ぼそりと誰に言う素振り無く、アイヴィーはその場を抜け出した。四人は心配そうに彼女を見つめるが姿が見えなくなると再び舞台の熱狂の方へ視線を戻す。

「………………」

 女王は最後までアイヴィーの動きを追おうと視線を動かしたが満席の熱狂の中少女一人を探すことは困難だった。俯きがちに仕方なく見世物の方へ視線を戻す。

「なによ、なによ……アイツら職務放棄して演者になんかになって……機関の怪人としてのプライドは無いの! 何のために、私は……あんなものを見るためにここに来たんじゃない!」

 モンストピアがアイヴィーに見せる世界はかなり高い完成度を誇る理想だった。妹を救えたかもしれないフェーズアップ法、固定化した患部を持つスラムの人たちを少しずつ島民にして救って来た実績、変身可能ゆえに自身の存在の両義性に悩む怪人への一つの解答であるコロシアム。どれもがアイヴィーの目には輝かしいもので、そして、自分には程遠いものだと理解してしまう。

 先達のように任務を放棄すれば島の住人としてこの理想の世界に住むことが出来る。今のところ女王には懐かれているのでこの願望はすぐに実現できるだろう。きっと世にも珍しい複数の患部を持つキメラタイプの怪人としてコロシアムで働く自分という、そんな輝かしい想像まで出来るのは相当頭がめでたいのかもしれない。

 しかし、アイヴィーがこの理想を受け入れるには機関に入ってからの一年間で傷つきすぎていた。生真面目な彼女は今更あのような理想の世界の中に入って行けるとは考えられない。憧れても、体がそれを拒絶する。

 何よりも、アイヴィーにとっての中心は自分では無い。妹のブロッサムだ。この場所が理想郷と言えど妹はその恩恵を受けることが出来ない。妹を救うためには、最終的にこの島を裏切らなくてはいけない。境遇と顔が似ているからって、タケルの介助をする事、女王の世話を焼くことは決して妹の代わりになる事は無い。

「どこかで……いい加減覚悟を決めないと……」

 未知そのものである女王相手に自分はどこまで出来るか。アイヴィーはいっそこの場所でトラブルでも発生して誰かどさくさ紛れに彼女を攻撃してくれないかと投げやりになる。それだけ自分と彼女との間には戦闘力以前に隔たりがあると思っていたし、現在の乱れた精神状態ではまともに行動を起こす自信が無かった。彼女の左腕は未だにかゆみを訴えている。

 何か、自分の覚悟を固める決定的な何かが欲しい――

「……ふぅ……どうでもいい事を考えるよりも、まずは合流しましょうか」

 洗面所で手を洗い、精神を落ち着けると彼女はとりあえず四人のいる観客席へと戻る事にした。何を仕掛けるにもここでは人目が多い。あの人がいい四人は自分が戻らないと心配するだろう。ひとまずは合流だ。女王のサンプルの回収は今日だけでも数度チャンスがあるはず。その時を淡々と狙えばいい。

「……?」

 舞台の方、演者が演技を終えて地下へと舞台がおりてゆく。それはいい。アイヴィーが何度も見てきたこのコロシアムの舞台構造である。しかし、彼女の鼻はそこから今までの演者とは異なる質の匂いを嗅ぎ取っていた。

「‼ この匂いっ……全員伏せて‼」

 アイヴィーの警告と同時に乾いた銃声が響き渡る。せり上がる舞台中央、そこには全身から血を噴き出す怪人演者と彼を戦利品のように観客たちの前に突き出す軍服姿の一団の姿があった。


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