第5話 【アラフォーの砂】SFPエッセイ105
年齢で人のことを決めつけるのは感心しないと思っていたのだけれど、ここに来て考えが変わってきた。というのも、先日、友人に妙なものを手渡されたからだ。
友人といってもごく最近知り合ったばかりの人物で、家から二駅離れた駅前の一杯飲み屋の常連だ。そう。わたしには帰宅の途中で一杯飲む習慣があるのだ。
昔からそうだったわけではない。気がつくと、仕事を終えて家に帰る前にある種のクールダウンをするために酒を飲むようになった。家に帰るのが嫌だというわけではないのだが、いきなり家に帰るのは違う感じがしてきたのだ。
そういう話をすると仕事仲間でも同じようなことを言う人がいる。やはりまっすぐ家には帰れないというのだ。もちろん中には恐妻家で家に帰れないとか、酒は好きだが家飲みが嫌いとか、わかりやすい理由をもっている場合もある。でもわたしと同じように、ただクールダウンのためだけにどこかに立ち寄る人も何人かはいる。それも決して家の最寄駅ではない。何駅か前の駅で降りるというのだ。
これは何だろうと思っていた。
わたしが通っている店は「火星の石」という意味を持つ名前の店だ。ホラばかり言うマスターがいて、いつも変なカクテルを出してくれる。飲むと頭がリセットされるようなカクテルも魅力的だが、わたしは主にビールを一杯だけ飲む。
何度か通ううち、常連とも気軽におしゃべりをするようになった。そのうちの一人が特に仲良くなって、先日、鹿児島土産だと言って瓶詰めの砂をくれた。沖縄の星砂のようなものかと思っていたらそうではない。アラフォーの砂だという。
「アラフォー? アラフォーって40前後のアラフォー?」
「もちろんです。ほかに何があります?」
「アラフォーの砂って何ですか?」
「開けるとアラフィフになります」
もらって帰って、家で眺めているうちにふと開けたくなったのだが、いきなりアラフィフになるのも辛い。まだアラフォーでいたいと思う。いまの年齢が気に入っているわけではない。でもアラフィフになりたいとは思わない。10歳損するからとかそういうことではなく、アラフィフというのはなじまない。それはわたしではない。わたしはアラフィフに属したくないと感じるのだ。ふと思ったが、これが年齢というものかと思う。年齢で人のことを決めつける気はないのだけれど。
(「【アラフォーの砂】」ordered by 山口 三重子-san & 佐藤 真理-san/text by TAKASHINA, Tsunehiro a.k.a.hiro)
※注意:このエッセイはフィクションであり、 実在の人物・団体・事件などとは一切関係ありません。
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