再び、故に、話

 恥じらう様子も無く衣服を脱いでいく萌々ちゃん。

 脱ぎ捨てた服が床に落ちた音が耳に入った。

 獲物を捕らえた眼で俺の顔を覗き込み、ほのかに温かさが感じられる手の感触が、頬を伝う。


 「好き❤大好きだよ恭❤」


 迫ってくる萌々ちゃんの顔。

 俺は首を振って拒絶の意を示す……けれどそんな行動に何の意味も無く、萌々ちゃんは俺の衣服をも脱がし始めた。


 「私だけが知ってる恭の体❤私だけの恭❤」

 「やめっ!? ヒィっ??!」


 脱がされ露わになった上半身を、萌々ちゃんの指が這い回って変な声を出してしまった。

 それがお気に召したのか、一段と息を荒げる萌々ちゃん。

 生暖かい吐息が顔にあたる。


 「萌々ちゃんお願いだっ!? 信じてよ!! 本当にあの子とは何も」

 「まだ言うんだ、恭。……まぁでも良いよ、信じてあげる」

 「じゃ、じゃあもう」

 「でもね」


 萌々ちゃんの顔が俺の真横に移動して、耳に息があたる。

 そして、耳元で囁いた。


 「私もう我慢できないからさ❤こんなになったの恭のせいだから……責任取ってね❤」


 小さな舌で、耳を一舐めした。

 脳がチカチカと危険信号を発し、俺はそれに従う様に再び萌々ちゃんから逃げ出そうとベッドの上で暴れ狂う。

 足をバタつかせ、激しく頭を振り、両手で萌々ちゃんを押し退けようと必死になった。

 だが結果は変わらず、寧ろさっきよりも力強く萌々ちゃんに拘束されてしまった。


 「無理だよ恭。私から逃げられるわけないでしょ? 大人しくしてれば、とっても気持ち良いんだよ❤」

 「嫌だぁっ!? 萌々ちゃん!! こんな事ダメだって言ったはずだよ?! こんなの間違ってるって!! 兄妹でこんな事っんぶぅ!?!」


 喚(わめ)く俺の口を、萌々ちゃんの唇が塞ぐ。

 無理矢理にこじ開けられた口内に、唾液を纏った舌が侵入してくる。

 お互いの舌を絡ませて、逃げられない様にされる。

 数秒が数十分にさえ感じられ、口が解放された頃には、俺の口周りは萌々ちゃんの唾液で濡れていた。


 「ふぅ、ふぅ❤ やっぱり美味しいなぁ、恭のお口❤ ……じゃあ次は、もっと美味しいの、貰っちゃおうかなぁ❤」

 「や、やめ」


 萌々ちゃんの手が、俺のズボンへと伸びる。

 その手を掴もうと目線を下に向けると、いつの間に脱いでいたのか、既に萌々ちゃんは下も脱ぎ払っていた。

 見てはいけないと目を瞑る。

 そうしてしまった次の瞬間には、俺も下を脱ぎ払われ……そして、俺はまた、


 「一緒に気持ちよくなろうね、恭❤」


 妹に犯された。


――――――――――――――――――――――――――――――――――――


 巳柑さんが帰って来たのは、あれから1時間程してからだった。

 夕飯の食材を手にした巳柑さんが俺の部屋にやって来たが、体調が優れないからと伝えて一人にしてほしいとお願いした。

 心配して声を掛けてくれる巳柑さんに返事を返し、巳柑さんが去って行ったのを確認してから俺は布団にくるまって泣いた。

 正確には泣いていた。

 声が聞こえない様に枕に顔を押し付けながら泣いていた。

 家族に犯されたんだ、泣きたくもなる。

 情けなくもなる、年下の女の子にいい様に組み伏せられて、力で負けて。

 このままの関係が、これ以上続いたら……俺は壊れてしまう。

 自分が自分では無くなってしまうんじゃないかとさえ思ってしまう。

 だから早く……。

 泣き疲れてしまったのか、俺はそのまま眠ってしまった……。


――――――――――――――――――――――――――――――――――――


 翌日は、いつもよりも遅い時間に目を覚ました。

 今日が休日で良かった……昨日の事があってからじゃ大学にも、と言うより、外に出られる気分でも無かったから。

 ましてや、いつも一緒に家を出る萌々ちゃんと顔を会わせるなんて事はしたくなかった。

 きっと萌々ちゃんは、そんな事お構いなしにいつも通りだろうが……。


 「……顔、洗ってくるか」


 目の周りがカサカサする。

 昨日あんなに涙を流したからだろう。

 ベッドから降りてドアを開ける。

 部屋を出て洗面台まで行って顔を洗った。


 「はぁ」


 顔をサッパリしても、気分が晴れる事は無い。

 タオルで顔を拭いて、リビングを横目に見る。


 「あっ! おはよう恭君、もう体調は大丈夫なの?」


 リビングにいた巳柑さんと目が合うと、俺の元へ駆け寄って来て手を握ってきた。

 心配してくれていたという事が嬉しく思えて、自然と笑みが零れた。


 「はい、眠ったら良くなりました。心配かけてごめんなさい」

 「良くなったのならいいけど、無理しちゃダメよ? 今日は大学もお休みでしょ? 私もお休みだから、何かあったらすぐに言ってね?」

 「はい、ありがとうございます」


 気を掛けてくれる巳柑さんにお礼を言いながら、リビングを見渡す。

 そんな俺を見て何かを察したのか、巳柑さんが答えた。


 「萌々なら出かけたわよ? また喧嘩でもしてるんじゃないかしら? 困った子よね……まぁ私もあの子くらいの頃は似たような事してたから言えた口じゃ無いけどね」


 家に居ない事を聞いて、一安心する。

 またいつもの調子でグイグイこられても参るからな。

 今だけは、ゆっくりと出来そうだ。


 「そうですか。……じゃあ、俺は部屋に戻ってますね」

 「分かったわ。何かあったら呼ぶのよ?」


 分かりましたと返事を返して、部屋に戻ろうとした。

 そこで、足を止める。

 今、家に萌々ちゃんは居ない。

 ……巳柑さんに話がある。

 ずっとタイミングを見計らっていたが、今がそうじゃないのか。

 萌々ちゃんが居ない今しかない。

 俺は振り返って、巳柑さんに向き直った。


 「あの、巳柑さん」

 「ん? どうかしたの恭君?」

 「あの、話したい事があって……」

 「話? なぁに?」


 何だろうと首を傾げる巳柑さんに、俺は一呼吸置いて言った。


 「俺……この家を出ようと思います」

 「えっ」


 巳柑さんが、口を開けたまま固まった。

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