直後、講堂に歓声が湧き起こる。

 裁縫部の下級生たちは手を取り合って喜び、不良部長たちは満足気な表情を浮かべながら、当然だな、なんて軽口をたたく。

 そして当の当事者である五月女先生はと言うと、いつの間にか、さきほどまで私が座っていた椅子で休憩していた。


「喜んでいるところ、水を差すようで悪いのだけど、私たち生徒会が協力できるのは、あくまで舞台公演とポスターの張り出しの許可までよ。職員会議での決定に異議を唱えたりなんてのは到底無理だから、そこはあしからず」

「な~に、そこは問題ないさ。告知さえできれば、あとはこっちのもんだ」

 なにか思案があるのか、森さんは得意げに応える。

「そうそう、なんせ、もう私たちの舞台を観賞したファンがここにいるんだから」

「なに、私たちに宣伝させようってこと?当たり前だけど、特定の部への贔屓なんて出来ないわよ」

「匿名でいいからさ、学校の掲示板サイトに書いてくれよ~」

「掲示板ってもしかして『福校外』のこと?裏サイトの?ハァ、あのね、私があそこのアカウントを持ってるとでも?」

「「いや、お前は持ってるだろ」」

 森さんと植村さんの二人にあっさりと見抜かれてしまい、息ピッタリのツッコミをいれられてしまう。

「…はい、持ってます――」

 一応、風紀調査の一環という建前ではあったが、それが役に立ったためしはない。

「――けど、やっぱり無理。生徒会の本分に反するわ」


「おっと!そういえばこれ忘れてた~~」

 植村さんは大袈裟な声を上げながら、ICカードがちょうど納まるサイズの封筒をいくつも取り出す。そ、それは、と森さんもわざとらしいリアクションを取る。なんだかこの二人を見ていると、だんだん腹が立ってきた。

「なに、それは?」

「これは所謂記念品だよ。本人たちの強い希望もあってさ、俳優さんへの写真撮影は禁止のつもりなんだけど、それならせめて観に来てくれたお客さんたちに、思い出に残る物を何か形にして贈りたいって思ってさ」

「作成したコイツら曰く、未公開シーンや制作シーンを収めた写真らしいぞ。……そういや結局、中身の確認はさせてくれなかったよな、お前たち?」

 始めの内は興味なさげに語っていた五月女先生であったが、途中から思い出したようにギラギラした意味深な視線を二人の問題児部長に向ける。

「なにを仰いますか、私たちはただ、忙しい先生のお手を煩わせまいと――」

「――そうそう、気にしな~い気にしない♪てなわけで、どうぞ~」

 その場を空気を必死に変えようと、植村さんは私たち生徒会役員一人一人に封筒を手渡していく。

 

 初めに封筒を開いた男子役員の封筒の中には、体操着に着替えて練習している五月女先生や姫守君の姿が収められた写真が入っていた。

「あ~それ三等だね」

 横から覗き込んだ植村さんはボソリと呟く。

「なにそれ、これって等級があるの?」

「ナハハ、その方が楽しいし。ちなみに、二等は私服のベルと野獣、一等はドレス姿のベルと王子様だよ~。あと、シークレットもあるよ~」

 楽しいかはともかくとして、植村さんらしい遊び心のある試みではあった。

「あっ…やった」

 小声でそう呟いた蛯原さんは、小さくガッツポーズをする。蛯原さんの写真にはドレス姿のベルが王子役の五月女先生と楽しそうにお喋りしている様子が写っていた。


「それじゃ私も、どれどれ――」

 封を外して中身を取り出す。

「――ッッップフッッッ」

 初めに視界に飛び込んできたのは、白く透き通るような柔肌をした後ろ姿だった。ドレスのホックが外れ、背中からお尻にかけての魅惑的なラインが赤裸々に写されていた。しかも、お尻のラインまで見えてしまっているため、必然的にそこには真っ赤な下着までがはっきりと写り込んでいた。

 その後ろ姿は紛れもなく、さきほどまで目の前にいたあの姫守君だった。

「……ア……あ……アナタ………貴方ね!」

「おやっ、その反応はもしかして当たった?」

 植村さんは臆面もなく、おめでとう、なんて言ってくる。

「会長のはどんなのでしたか?」

「えっ、いや、ふ、普通だったわよ?」 

 写真を覗き込もうとする蛯原さんたちから隠す様に、咄嗟に写真を懐にしまい込む。我ながら不審者のごとく動作がぎこちない。周りからもあからさまに動揺しているのがバレバレだった。

「あの、会長?どうかされたんですか?」

 役員の皆からの訝しむような視線を向けられる。私には非は一切ないというのに、どうして周りからそんな目で見られなければならないのか?甚だ遺憾だった。

 おまけにこの写真、枠がキラキラのラメ加工が施されているのが妙に腹が立つ。


「――あの、皆さん、どうかされたんですか?」

「ゥッッ!?」

 いつの間にか近くにいた姫守君に、心臓が飛び出しそうになる。

 そんな私を、ジャージに着替えた姫守君は訝しそうな表情で見つめる。

「オッホンッ!いいえ、なんでもないのよ、姫守君。それより、さきほどの舞台は素晴らしかったわよ。姫守君の舞台に掛ける熱意と努力、誠実さが窺える見事なものでした」

「ありがとうございます!そう言ってもらえると励みになります」

 姫守君の表情がパッと明るくなる。

「ふあ~、で、オレは?オレの演技は?」

 隣のぐうたら教師が、欠伸をしながらなにか言った気もするが無視する。

「既に聞こえてたと思うけど、公演の許可は出してあるわ。文化祭までまだ日はあるけれど、これで満足せずに、本公演までの間にさらに研鑽と工夫を重ねた、これ以上の舞台を期待しているわ」

「ええ、オレもうこれで精一杯なんだぞ。余計なプレッシャー掛けるなよ」

 椅子の上でぐでっとしたまま、五月女先生はブーブーと文句を垂れる。

「ふうむ、……これ以上となると、もうベルを裸にひん剥くしか…」

「んだね~、やっちゃうか~ナハハ~」

「「「却下!!」」」

 眉間に皺をよせて真剣に悩む森さんと、能天気にケラケラと笑う植村さんの二人に、周囲から一斉に反対の声が上がる。




















 



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