第11話

 目の前に現れたお姫様は全身から陽の光のような輝きをキラキラと振りまいていた。その光は決して銀色の髪飾りや純白のドレスだけのせいではない。お姫様に変貌した姫守君自身から眩い輝きが溢れ出していた。

「わァ…すごい…」

「ヤバイよ、これマジでヤバイよ」

「小っちゃい頃に観たシンデレラにそっくり…」

「ねえ、すごいね、舞ちゃんすごいね」

 視線は姫守君に釘付けのまま、興奮した美咲ちゃんは私の肩をポンポンと叩く。

「うん。…だって姫守君だもん」


 カシャッ!

 

 突然、何処からか誰とはなしにシャッター音が鳴る。それに続くように、皆が一斉にスマホを取り出し始める。

「え、え、あのちょっと…」

 まさか写真を取られるとは思っていなかった姫守君は、突然の出来事にオロオロと狼狽える。

「きゃああー素敵、とってもカワイイよ!」

「こっち、こっち!こっちに目線下さ~い」

「ちょっと、被写体の後ろに入らないで邪魔っ!!」

「わ、私、あとで一緒に記念撮影したいです!」

「お!それいいね~!」

 どうしてこんなことになったのか、突発的に始まってしまった撮影会で、皆は好き放題に姫守君をパシャパシャと撮影しまくる。

「ウゥ…」 

 姫守君の顔がみるみるうちに赤くなっていく。姫守君には申し訳ないけれど、恥じらう姿はとても可愛らしい。周りの皆のように、私も今すぐにでもカメラでその可憐な姿を写真に収めたかった。

「姫守君…」

「歌敷さん、どうか皆を――」

「私も撮っていいかな?」

「?!」

「1枚で、やっぱり2枚でいいから」

「う…う……」

「駄目かな?」

「うわああぁぁぁーーーー!」

 突然、大声で泣き出した姫守君は、回れ右するとそのまま準備室に駆け込んでしまう。

 驚いた森部長が急いで準備室のドアノブに手を掛けるが、すぐにこちらを振り返ると力なく呟く。

「…鍵…掛けられちゃった……」

 その瞬間、この場にいる全員が悟る。やり過ぎた、ということを。



「最近、よく料理の本読まれてますね」

 雑誌から顔を上げて声のした方を見ると、隣で返却された本を何冊も抱えた少女がこちらを見つめていた。ショートヘアだが、前髪が目元まで隠れているその少女は藤堂さんと言い、図書委員として放課後は図書室の受付係をしていた。入学当時から頻繁に図書室を訪れていたため顔見知りとなり、友だちというほどではなかったが、二言三言、言葉を交わす程度の仲だった。

「ええ、最近すこし興味が湧いてきて」

「誰か料理を作ってあげたい方がいるんですか?」

「…そんなところ」

「そ、それってもしかして噂の転校生くんですか?!」

 いきなり顔を近づけてきた藤堂さんは興奮気味に質問をする。

「ええ、まあ…」

「あの、もしかしてですけど、お二人は付き合ってたりするんですか?」

「…いいえ、ただの友人よ」

 昨日の屋上でのキスが一瞬脳裡を過ぎる。

「じゃ、じゃあ、つ、付き合ってる人っているんでしょうか?」

「いないわよ…たぶんね」

「そ、そうなんですか………よかった」

 最後のほうは小声だったが、静かな図書室なのでバッチリと聞こえてしまう。

「姫守君に告白でもするの?」

「ちちち、違います!そんな、まさか…ただ、友だちになれならいいなって……」

 近藤さんは否定するように全力で顔と手を振る。もし、うそつきの選手権があったとしたら、彼女は間違いなく予選敗退するだろうと思えるくらいに嘘が下手だった。

「友達…ね」

 友達になること自体はたやすいだろう。なにせ本人にお願いすれば二つ返事で了承してくれるだろうから。まあ、そもそもにして言えればの話だが。


 ガラガラバーーンッ!!


 突然、図書室の扉が勢いよく開かれる。

「ひゃっ?!」

「なに!?」

 驚いて扉の方へと視線を向けると、開け放たれた扉の前には歌敷さんが切羽詰まった様子で立っていた。

「あの、扉は静かに――」

「委員長~助けて~」

 駆け寄ってきた歌敷さんは周りなどまるで気にせず、私にしがみついてくる。

「ちょっとくっつかないで!暑苦しいじゃない!」

「委員長~お願いだから助けて~」

「助けてって、一体なにを?」

「…じつは姫守君が――」

「あなたたち!、また姫守君にちょっかいかけたの!?」

「うゥっ、だって………」

「はぁ…人って集団になると、えてして思考を放棄しがちになるけど、あなたたちはその最たる物よね」

「………もしかしてけなしてる?」

「当たり前でしょ!同じミスを二回も、しかも二日連続でとか、あなたたちには考える頭ってものがないの?もしかして人間じゃなくて類人猿だったりしない?」

「うぅ~、いつにも増して辛辣だけど、返す言葉もございません。ですが、そこをどうか、ど~~か、姫守君を落ち着かせてあげて下さい」

「言っておきますけど、私はあなたたちの精神安定剤じゃないのよ!………もう、仕方ないわね」

「ホント?やった!」

 さきほどまでこの世の終わりのような顔をしていたのに、こちらの返事を聞いた途端に、歌敷さんの顔はパッと明るくなる。

「言っておくけど、あなたのためじゃないから、姫守君のためだから。勘違いしないように」

「は~~い」

 この子、いっつも返事だけはいいわね……。

「それで?今度はどんなちょっかいをかけたの?」

「うんとね………、あ~それはまた道すがら…」

 歌敷さんは視線を私の横に向けると言葉を濁す。隣を見ると藤堂さんが興味津々といった様子で立っていた。

「ああ~そうね。それじゃあ藤堂さん、今日はこれで」

「え、あ、うん…バイバイ」

 寂し気にこちらを見ている藤堂さんを残して図書室を後にする。


「どうしてあの場で言わなかったの?」

「う~んとね、今はまだあんまり知られないほうがいいと思ったのと、あと敵を増やしそうな気がしたから…」

「敵?」

「うん、敵」

「それってつまり恋敵のこと?」

「もちろん。あの子、姫守君の名前を出した途端、目を輝かせてたから」

「なるほどね。…それで話を戻すけれど、具体的に姫守君に何があったの?」

「それが――」









































 






















 






















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