第4話
「うわ、スゴイ人の数…」
午前の授業を終えて、お昼休みを取るために屋上へとやってくると、すでに屋上には何組もの女生徒たちのグループが敷き物を敷いて楽しそうにお弁当を食べていた。
「ねぇ、委員長…これって気のせいじゃなければ…」
「ええ、昨日、一昨日と段々数が増えていってるわね」
「そういえばそうだね」
言われてみればその通りだった。やはり天気の良い日は、皆、昼食は外で摂りたいと思うものなのだろう。
とりあえず、適当な場所を探そうと屋上に入る。すると、さきほどまで楽しそうに談笑していた会話が止み、周囲の視線が一斉にこちらへと注がれる。反射的に足が止まる。いや、正確には足が竦んだ。
「よくよく考えてみれば当然かも。私たちほぼ毎日、ここで昼食を摂ってたでしょ」
「…あ~たしかに」
「皆、外でご飯が食べたかったんじゃない?」
「「……」」
どうやら見当違いの事を言ってしまったようだ。無言の間が辛い。
「ま、まァ、別にいいじゃない。イジメられてるわけでもないんだから、他人の目なんて気にせず食べましょう」
「あはは、委員長ってさ、たまにナチュラルに人の心を抉ってくるよね~」
「そういうあなたは相手のプライバシーにずけずけと入ってくるのが好きよね」
歌敷さんと斎藤さんは互いに満面の笑顔で見つめ合う。
ふたりは本当に仲が良くなった。それも元を辿れば、歌敷さんを苛んだ不幸が原因なのだから、人というものは本当に不思議だ。諦めない心と、立ち向かう勇気を持つ
この二人との出会いは、僕にとって宝物に等しかった。
適当な場所を探すも、隅のフェンス側は埋まっていたため、ぽっかりと開いていた中央のスペースで食事を取る事にした。
二人が持ち寄ったお弁当箱の蓋を開けると、中にはそれぞれ三角のおにぎりと俵型のおにぎりがぎっしりと詰め込まれていた。
「よりによって、なんでそこで被るのよ」
「だって…おにぎりなら失敗しないかな~って…」
「はあ~、まァ、私もあなたと似たような思考だったから文句は言えないけど、でも、それでよく『日頃の成果を見せたい』なんて言えたわね」
そうなのだ。じつは昨日、日頃から斎藤さんのお母さんである香さんから料理を習ってる歌敷さんから、「日頃の成果も兼ねて、皆でお弁当を持ち寄ろう」という提案があった。僕はもちろん賛成で、斉藤さんもしぶしぶといった様子賛成した。
「でもでも、中の具はとっても頑張ったんだよ!こっちは中に小さめに刻んだ青椒肉絲が入ってて、こっちのは炒めた餃子餡が入ってるんだよ!」
「どんなもんだ」、と歌敷さんは胸を張る。
その様子を見ていた斎藤さんは、顔を押さえて静かに溜息をつく。
「はぁ…、具まで被ってる…」
「嘘ッ、マジで?!」
「べつに気にしないよ?」
「姫守君は気にしなくても、こっちは気にするの」
「ええ、そうね。奇しくも料理対決になってしまったわけだからね」
さきほどまでのほのぼのとした空気が嘘のように、二人は睨み合う。
「じゃあ…」
「いざ…」
「「どうぞ、姫守君!」」
ふたりは互いのお弁当を僕の目の前に突き出す。
「……えっ?」
「率直な感想を聞かせて下さい!」
「全く同じ献立を用意してしまった以上、ここは優劣を決めざるを得ないの」
「…あの、まるで意味がわからないのだけど」
「分からなくてもいいから!」
「どちらが美味しかったか言ってくれればいいのよ」
ふたりの剣幕に圧されて困り切っていると、なにやら周囲から熱い視線を感じる。さりげなく周りを見回してみると、なぜか周囲の女生徒たちまでが、箸を止めてこの様子を固唾を呑んで見守っていた。
「「さあ!!」」
ただ、皆で仲良く昼食を摂りたかっただけなのに、どうしてこんなことに…。
「うっ…、キュゥ…」
昼食を終えて、教室へと戻る。席に着くと同時に胸から何か込み上げてくる。
結局あの後、なぜかおにぎりは全て僕が食べる流れになってしまった。もちろん、二人のお弁当は美味しくいただいたのだけど、なぜかそのあと、成り行きを見ていた女生徒たちまでがお弁当を持ち寄ってきた。その結果、お腹がパンパンに膨れてしまった。比喩ではなく、本当にお腹がポコッと出ていた。お腹が一杯の状態で、さらに胃に物を詰め込むのが、こんなにも苦しい事だとは思いもしなかった。
「…あの、大丈夫?姫守君」
「ふぅふぅ、…うん」
「いやいや、とても大丈夫には見えないよ?ごめんね、私がもっと強く女の子たちを止めていれば」
女生徒たちがお弁当を持ち寄ってきた際に、歌敷さんと斎藤さんは僕に気を遣って女生徒たちを止めてくれたのだが、納得できない女生徒たちと段々険悪なムードになってきたため、結局、断り切れずにほとんど食べてしまった。
「やっぱりちょっとつらいかも…」
「それちょっとどころじゃないよね。保健室で横になる?付き添おうか?」
「そう…だね。大丈夫、すこし保健室で休んでくるよ」
心配してくれるクラスメイトたちに見送られながら、保健室へと向かう。
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