第16話 お婆ちゃんのお弁当

 小さいころから、私はお婆ちゃん子だった。

 家族は皆、遅くに帰宅する。共働きの両親も、塾に通う歳の離れた兄も。だから私は、平日は近所のお婆ちゃんの家に行き、そこで夕食を取っていた。

 そのせいか、私は自然と薄味に馴染んでいた。

 休みの日に食べる母の料理は、父や兄の好みに合わせて味が濃く、私は食が進まなかった。食べ残しては母に叱られた。


 中三の秋、大きな台風で被害が出た。学校の給食センターがずっと停電していて、学校から弁当を持参するようにと言われた。

 私はお婆ちゃんとお弁当を作って、学校へ持って行った。友達が食べて「おいしい」と言ってくれた。嬉しくなった。

 料理を作って、食べてもらう悦び。それを知って、調理科のある高校に進学したい、と思った。

 でも、先生にはずっと「普通科にしろ」と言われていた。


 年が明けて二月、願書を出すギリギリの日。先生に呼び止められて帰宅が遅れた。

 ようやく帰宅すると、成人している兄が待っていた。今日のために休みを取ってくれたのだ。


「早く飯を食え。ぐずぐずしてると四時になっちまうぞ」


 兄に言われて、食卓に着く。

 家族はみんな、お昼を食べずに待っててくれた。先生に呼び止められたとき、スマホで連絡すれば良かった。

 お母さんが温め直してくれた遅い昼食。一口食べて、気がついた。

 薄味で引き立つ、素材と出汁の旨味。お婆ちゃんの料理だった。


「お義母さんがね、みんなで食べなさいって」


 この所、体調を崩していたのに。


「ちゃんと食わないと、お前はすぐ車に酔うからな」


 いつもはぶっきらぼうだが、この日の兄は優しかった。

 願書を出す手続きのために車に揺られながら、今度は兄のためにお弁当を作ろうと思った。

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