第11話 この手を放したら

 ピロン。スマホにメッセージ。

 開いて見たら、クラスで一番、地味な女の子から。


『明日、一日わたしとつきあってください』


 え、これもしかしてデートのお誘い? やった!

 正直、まともに話したことも無いけど。実は可愛いな、とずっと目で追ってた。

 だから、早速OKと答えた。


 次の日、焦って約束より三十分も早く待ち合わせ場所に行ってしまった。あまり来たことのない繁華街。

 やがて、時間ピッタリに彼女はやって来た。息を切らせて。


「は、早かったのね。待たせちゃった?」

「うん、大丈夫。来たばかりだから」


 きゅっ、と手を握られた。


「じゃ、行きましょう」


 そうして最初に向かったのは携帯端末のショップ。


「もうこれ、要らないから」


 いきなりスマホの解約。あらかじめ手続きはネットでやっていたのか、書類にサインしておしまいだった。


「じゃあ、次ね」


 不案内な繁華街なので、ずっと彼女に連れ回されるだけ。それでも僕は嬉しかった。つないだままの彼女の手は、すごく柔らかくて暖かく、ちょっと汗ばんでいた。

 アクセサリーやら小物やら覗いているが、買おうとはしない。僕にも買えるくらいの値段もあった。


「買ってあげようか?」

「いいよ。悪いもん」

「悪くないよ」


 でも、何も買わないのもな、と思って、ソフトクリームとかジュースとかを買ってあげた。


「二人だと、美味しさ二倍だね」


 そう言って笑う彼女は、ちっとも地味じゃなかった。


 でも、僕は重大なミスを犯した。


 とある小物の店に入った時、スマホが鳴った。店内では電話に出れない。


「ごめん、すぐ戻るから」

「うん……」


 ずっとつないでいた手を放して、外に出る。電話は母からで、どうでもいい事だった。さっさと切って店に戻ろうとすると、クラスの女子三人に捕まってしまった。


「あんた、地味子と一緒だったでしょ」


 そんな呼ばれ方してたんだ。


「どういうつもりか、話してもらうわよ」


 そのまま、話せる場所まで強制連行。

 でも、祝日の繁華街はどこの店も満席で、散々引きずり回されて解放されたんだけど。

 スマホで彼女に連絡しようとして気が付いた。さっき彼女、解約しちゃったんだ。


「ここはどの辺? さっきの店は?」


 もう、わからない。店名すら覚えていない。なんとか案内板を見て、小物を扱う店を回った。何軒目かで見覚えのある店に入ったが、彼女の姿は無かった。

 がっくり打ちひしがれて。


「明日、学校で会ったら謝ろう」


 翌日、担任が伝えた。彼女が家庭の都合で急に転校したと。


 ――あの時、この手を放さなければ。


 からかわれようと冷やかされようと、僕の涙は止まらなかった。

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