第10話 午後三時で帰りましょう
「タッちゃん、そっちに敵が!」
「おう、まかしとけ!」
魔法剣士のAR《拡張現実》コスで剣を振りかぶり、山本タクミはレッサーデビルの群れに突入した。
浜田トモコは魔法少女のコスでバトンを振るい、後方から支援。その肩にとまったミニドラゴンのゴン太も、小さな火の玉を小刻みに吐いては二人が打ちもらした敵を始末していく。
しばらくして敵の攻撃がひと段落すると、タクミの腹が盛大になった。
「腹減ったな~、そろそろ三時か」
「オヤツにでもする?」
実はトモコ、お手製のクッキーとか持参してる。
「あ、良いわね。私も作ってきたの」
「お、カオリ、気が利くじゃん」
一緒に来ていた楢沢ジョウと宮本カオリも。
今日は開校記念日で、六年三組の有志での親睦会。という名目のグループ交際だったりする。
しかし、敵は甘々なカップルたちにも甘くはなかった。
いきなり敵の大量発生。魔法の弾幕。そして。
「ちょっと、ゴン太! 何やってんの?」
ゴン太が大ハッスル。いや、暴走状態で、出て来た敵を片端からブレスで焼き滅ぼす。
これではもう、ゲームにならない。
「なんか、一気に白けたな」
「……帰ろうか」
誰となくそう言うと、みなARコスを解除してぞろぞろと帰宅した。
* * *
出張先での商談が思いのほか早くまとまり、浜田テツオは昼過ぎには羽田に降り立つことができた。そして、会社には直帰と伝えてある。
「久しぶりに、平日時間が空いたな。ちょっと遊んでいくか」
と言っても、いわゆる風俗ではない。最近は珍しくなったバッティングセンターだ。実物のボールをバットで撃つタイプの。
とはいってもARは駆使されていて、往年の野球漫画のキャラがピッチングマシンに被さって、決め台詞を吐いたりするシーンで盛り上げたりしてくれる。
しばらく打ち返して楽しみ、会心のホームランを打ちあげた時。何やらARキャラが延々と独り芝居を始めた。青春をかけた情熱やらヒロインへの愛の告白とやら。
「ああ、もう午後三時か。帰るかな」
* * *
そのころ、浜田家ではトモコの母が夕食の用意などに追われていた。
「まだあの子ったら遊んでるのかしら。今日はテツオさんが出張から帰る日だっていうのに」
振り返ると、ホログラムのAI執事がうなずいた。
「午後三時です。そろそろ遊びは終わらせましょう」
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