第9話 Xを探せ

 久しぶりに従妹と会って会食などを楽しんだ。生まれた子供のDVDとか押し付けられて「観てね」とか言われた。「うん」と答えてショルダーバッグに入れて、苦笑い。


 別れた後で訪れたのは、ちょっとヤバ目の集まり。乱交パーティーみたいなものだと思ってた。

 しかし、案内されて入ったのは会議室のような部屋。何人もの男女がそこにいた。長テーブルやパイプ椅子などが壁沿いに積み上げられている。


 出入り口が閉じられると、主催者らしい者の声が。


「我々は□であり、この会は□だ」


 名前の部分は聞き取れなかった。壁のディスプレイには「目」を横長に引き延ばしたような文字と、微妙に捻じくれた横棒が表示された。


「この場では、どんな法も道徳も及ばない」


 不安にすすり泣く女性。ざわつき。

 これは、ヤバ目どころじゃない。

 帰らなきゃ、と思ったところで意識が飛んだ。


 気が付くと、のろのろと部屋の中を歩き回っていた。他のヒトたちも同じように、反時計回りでよろけながら。

 自分の身に何が起こったのか、何をされたのかわからない。


 視界がおかしい。メガネが無い。脇の畳んで積まれた長テーブルの上に、いくつかメガネが置かれていた。明らかに折れ曲がってる物もある。自分のメガネを見つけたが、レンズはバキバキにヒビが入っていた。


 肩にかけてたはずのショルダーバッグが無い。別な長テーブルの上にあったが、軽すぎる。開いてみると、中身は空……いや、従姉妹に渡されたDVDだけが残っていた。愛用の長財布も手帳もペンも無くなった。

 いや、長財布はすぐそばにあった。でも、やはりすっからかん。現金もカードも免許証も。


 もっと大事なものがない。スマホ。胸ポケットにあったはずなのに。

 途方に暮れた所で、また意識が飛んだ。


 気が付くと、同じ部屋の隅にぼんやり立ち尽くしていた。さっきと違い、警官が沢山いる。反対側の隅では、すすり泣き、あるいは激しく泣きじゃくる女性の声が。そっちは、何をされたのかわかりすぎるので、なるべく見ないようにする。


 帰らなきゃ、と空の財布の入ったバッグを肩にかけて部屋を出ようとすると、よれたスーツを着た男性二人組に呼び止められた。

 どう見ても刑事だ。

 そして、耳元でささやかれた。


「俺たちはXを負っている。この会を催し、君たちを巻き込んだ奴だ。捜査が進んだら連絡する。君の方も、なにか気づいたり思い出したことがあったら連絡してくれ」

 メモ帳を差し出され、連絡先を書こうとして戸惑う。


「ペンが……無いんです」


 もう一人の刑事さんに電話番号を告げて、メモしてもらう。うっかりスマホの番号を言いかけて、家の固定電話の番号にする。

 刑事さんは、もう一枚に自分の物らしい携帯番号を書いて、渡してくれた。


 そうだ。カードを盗まれたんだから停めなきゃ。スマホが無いから、窓口へ……ああ、免許証も健康保険証も無い。本人確認、どうしたら?

 それより何よりも。


 刑事さんの腕を掴んで、涙ながらに訴えた。


「お願いします……電車賃、貸してください」


 こんなに簡単に、何もかも奪われるなんて。

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