第2話 君はだれ?

 子犬を拾った。ちょっと毛の長い雑種。


 きちんと洗ってエサをあげて、抱きかかえて眠った。

 最初は手をペロペロ舐めたり、ちょっと甘噛みしたりで、可愛いな、で澄んでいた。でもだんだん激しくなって、噛まれると痛いどころでなくなってきた。

 生傷が増えて毛布にも血がついた。やめてよ、やめてよと訴えても、腕の中でどんどん激しく暴れる。気のせいか、身体も大きくなってきた。

 もうダメだ、飼うのは無理だ。


 子犬だったその子を、毛布で何重にも包む。ガウガウと暴れるのを必死に包む。

 その暴れる包みを抱えて、部屋のサッシからベランダに出る。もう空は明るくなってて、手すりの下には植木屋のトラックが止まっていた。


 ごめんね、ごめんね、と何度も言いながら、包みをしたに落とす。

 ドン、と音がして、包みは花の咲く植木の鉢の間に落ちた。

 死んじゃったかな、と流石に心配になるが、もぞもぞと動いて毛布の中からつぶらな瞳が見返してくる。


 やめてよ、今更そんな悲し気な目で見ないで。

 血が止まらない片手を高く上げて、部屋に戻って手当をする。

 そのとき。


 ベランダをトットットと歩いて来る、小さな姿。

 まさか。ここは二階で、登ってこれるはずが無い。

 サッシの向こうに現われたのは、さっきとは違う毛の短い犬種。

 あふ、とあくびした時に見えたのは、ずっと小さな歯。

 サッシの隙間をこじ開けて、腕の中に飛び込んで来た。

 その頭をなでながら、問いかける。


 君はだれ?

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る