夢日記
原幌平晴
第1話 焼き菓子の屋台
学校の帰り。駅前広場に焼き菓子屋の屋台が出ていた。
一つ買って帰ろうかと思うと、少し離れたところから屋台を見つめる、女の子が目に入った。
なんだか放っておけない感じがして、勇気を出して話しかけた。
「あのお菓子、食べたい?」
戸惑いつつも、うなずく彼女。
「じゃあ、一緒に食べる?」
今度は、ニッコリ笑って。
二つ買って、噴水のそばのベンチで一緒に食べる。
美味しいね、とか他愛ない会話をして、僕は舞い上がってた。
そしてついに、「また明日ね」と約束までして。
翌日の学校帰り、駅前広場の同じ場所で彼女は待っててくれた。
焼き菓子を二人前買って、噴水のベンチで二人で食べつつ話す。
遂に彼女の名前を教えて貰った。しかも、苗字が少し珍しいので確かめたら、なんと! 僕の先輩の妹さんだった。
「じゃあ、先輩も呼ぼうよ」
将を射んとする者はまず馬を射よ。だもんね。
スマホを取り出し立ち上がる。その時の、彼女の寂しげな表情を、僕は見落としていた。
「先輩、美味しい焼き菓子の屋台、出てますよ」
敢えて彼女の事には触れずに、呼び出した。運よく、先輩も電車を降りたところだった。
先輩の分の焼き菓子を買うため屋台へ向かう。会計をすませたところへ、先輩が合流。
先輩に彼女の名前を出してみた。
「ああ、私の妹なのよ。でも、ちょうど一年前、あのあたりで車にはねられて……」
指さした場所は、彼女を始めて見かけた場所。今日も待っていてくれた場所。そして、噴水のそばのベンチには人影は無かった。
「はい、先輩の分です!」
焼き菓子を手渡すと、僕はその場を逃げ出した。
こみ上げる涙を見られないために。
翌日、学校で先輩に「あの焼き菓子、美味しかった」と礼を言われた。そして、「良かったら、今度は一緒に」とも誘われた。
でも僕は、夢でも幻でもいいから、もう一度彼女に会いたかった。
無理なのだとはわかっていても。
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