そっくりさん
きさらぎみやび
そっくりさん
最近肩こりがひどい。
肩に限らず、朝に目を覚ますと節々が張っているような気がする。
年なのかしらと夫に相談してみたけど、俺はなんともないぞ、と聞いてもいないことを答えてくる。
布団をあげて、掃除機をかけ、洗濯物を干し、猫に餌をあげる。
日中動いているときは気にならないので、むしろ寝るときにどうやら緊張しているらしいことが分かった。
たしかに昔から寝つきがいいとはいえなかった。
夜中にふと起きてしまうと人の寝息が気になってしまい、うまく寝つけないことも多かった。今も夫のいびきが気になることはよくある。
息子が小さいときは添い寝しながらむしろその穏やかな寝息に癒されたものだけど。
どうして男のひとはああなっちゃうのかしらね。ちっちゃな頃は天使みたいにかわいいのに。
そういえばあの頃も一時期肩こりに悩まされたことがあった。
その時はどうしただろう、いつの間にか治っていたような気もする。
年を取って神経質になったのかしら、まさか更年期障害?
やだやだ、とつぶやきながら取りこんだ洗濯物を畳んでいく。
洗濯物の量もちょっと前にに比べてずいぶんと減ったものだ。
くる日もくる日もどれだけ洗っても部活で泥だらけになってカゴに放り込まれる息子の洗濯物にそりゃあうんざりしたものだけど、今となると大量の洗濯物をごうんごうんと洗濯機を回して洗い、明日の息子のお弁当の献立を必死に考えていたころが懐かしい。
ぼんやりと居間を見回す。
夫は昼間は仕事に出ており、日中家にいるのは私と猫だけだ。
息子が大学に入り、一人暮らしのために家を出てから、すっかり家の中が広くなったような気がする。
寂しさに耐え切れずに猫を飼い始めたのはつい先日。
商店街のスーパーにたまたま置いてあった保護猫の譲渡会のチラシ。
子猫たちのまだ頼りない瞳がうるうるとこちらを見つめてくる写真にすっかり心を奪われてしまい、緊張しながら初めて譲渡会に参加したのは先々週のことだったろうか。悩みに悩んで茶トラのやんちゃな子猫を一匹もらい受けた。縦横無尽にケージの中を転げまわる様子が、なんとなくサッカー部だった息子を思い起こさせたからだ。
うちに来てから最初はかなり警戒していたものだけど、このごろはずいぶんと懐いてくれている。やんちゃな性格は相変わらずで、今も毛糸玉を追いかけて部屋のすみっこを転げまわっている。
「ほんと、あの子みたいね」
毛糸玉を追いかける姿がボールを追ってグラウンドを駆け回る息子を思い出させる。
あの子は元気にしているだろうか。きちんとご飯は食べているだろうか。ちゃんと夜更かしせずに寝ているだろうか。
猫は寝子、とはうまくいったもので夜更かし癖のある息子と違ってこの猫はよく眠る。
この前の肌寒い日、ついに私の布団に潜り込んでくるようになったときは嬉しかった。それ以来毎日布団に来てくれている。狭い布団で猫の寝るスペースを開けるのにはけっこう苦労するけど。そこまで考えて、あ、と肩こりの原因に気がついてしまった。
たぶん猫の場所を確保しようと、布団の中で無理な姿勢をしているからだ。
よくよく思い出せば、息子が小さかった時も彼の寝相にあわせてこちらは無理な姿勢で寝ていた。息子が一人で寝るようになってから、いつの間にか肩こりもおさまっていた。
「ほんとうにあなたたちはそっくりさんね」
思わず笑ってしまう。次に息子がうちに帰ってくるのはいつだろうか。
まるでやんちゃ猫のようだったうちの息子に、彼にそっくりなこの猫を早く会わせてあげたいと思った。
そっくりさん きさらぎみやび @kisaragimiyabi
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