第27話 逃避行③

 襲撃があってから、かなりの時間が経ったように思える。

 陽は傾き、後方の夕日が空を朱色に染めており、とてもまぶしい。

 御者も疲れている頃だろうとレヴィンは彼らの事を心配する。

 どうせ今夜は夜襲があるんだろうなと少し憂鬱な気分になるレヴィン。

 正直、日中の襲撃者程度であれば全く問題はない。

 レヴィンが気にしているのは、魔族が出てくる可能性だ。


 ドルトムット卿が殺された時の魔族は魔神デヴィルの中でも低級であろうと推察できた。

 王都で戦った時の魔神デヴィルに比べたら屁でもないレベルである。

 それでも魔族は魔族であり、どんな能力を持つのかも未知数なのだ。

 警戒してもし過ぎる事はないだろうとレヴィンは考えていた。


 やがて日も落ち、薄暗くなってきた頃、レヴィンは馬車をストップさせた。

 少し早いが食事を摂る事にする。

 街道脇の林から薪を集めて来て、時空防護シェルターから出した鍋でスープを作る。

 食材はオレリア達が準備してくれたものを使用した。

 たき火を囲む八人の顔を、炎が朱色に染める。

 もちろん、その八人とは、レヴィン、ウォルター、フレンダ、オレリア、ルビー、バーバラ、エイベル、アニータである。


 八人とも黙って炎を見つめている。

 どの顔にも疲れの色が見える。一日馬車に乗っているのも疲れるものである。

 食事をしながらレヴィンとウォルター、バーバラの三人が話し始める。


「今夜、夜襲があると思うんです。マイセンの私設騎士団と穴に落としたヤツら――おそらく神殿の勢力だと思うんですが、合わせると中々の数になりそうですね」


「どう対応されますか?」


「僕は、探知の魔法で敵の動きを監視して、できる事なら先制攻撃をしかけます。それで数を減らせるだけ減らして、乱戦になったら助太刀お願いします」


 レヴィンは、そう言うと、スープに入っていた野菜を食べ、スープを飲み干す。

 ウォルターとバーバラは言葉の続きを待っているようで、レヴィンへ視線を送っている。エイベルとアニータは黙々と食事を摂っている。


「バーバラさんは、フレンダ達を護ってあげてください」


「彼女達は十分に自分の身を護れる位の力はありますよ。ずっと剣術を磨いてきたんですもの」


 確かに、レヴィンが見たフレンダとバーバラの模擬戦は、かなりレベルが高かったと言える。


「それは心強いですね」


 レヴィンは満面の笑みを浮かべてそう言った。

 

「おッお任せくださいまし! きっとお役に立ってみせますわ!」


 フレンダが緊張した面持ちで強がってみせる。


「まぁこちらも手練れが六人もいますから、無理をせずに馬車の中にいてください」


 レヴィンはそう言うと、闇魔法の魔導書をフレンダに手渡した。


「この本を読んでみてください。闇魔法の魔導書です」


「闇魔法の?」


 フレンダは魔女なので魔人と同じく、闇魔法が使える。

 自分の能力が闇魔法であるくらいならば、フレンダにも解るのだ。

 後は、闇魔法の魔法陣を覚えて描けるようになり、職業点クラスポイントを消費して目当ての魔法を習得すれば、その魔法が使えるようになる。


「はい。マイセンの部屋で見つけました。フレンダが魔女だと知って、屋敷の蔵書室から探し出して人目に触れないようにしていたんでしょう」


「まぁ……わたくしにも魔法が使えますのね。ようやく自分が認められたような気がしますわ」


「よかったですね。フレンダ! 以前から魔法を使ってみたいと言っていましたし、そんな本が家にあったなんて!」


 オレリアも自分の事のように喜んでいる。


「それにしても、そもそも闇魔法とは一体どう言ったものなんですの?」


「闇魔法は、魔人と魔女が使える魔法です。神聖魔法と同じで、魔族にも効果が期待できる稀有な魔法です。普通の黒魔法では魔神デヴィル悪魔デーモンにはダメージを与えられませんから」


「わたくし、魔女の事なんてちっとも存じ上げませんわ。レヴィン様は魔女について何か知ってらっしゃいますの?」


「ええ、能力には『闇魔法』、『二重魔法ダブルマジック』、『三重魔法トリプルマジック』、『闇属性化』、『超再生』、『使い魔使役』なんかがありますね」


「まぁ、そんなに能力がありますのね」


「はっきり言って有用な能力ばかりですよ。『二重魔法ダブルマジック』や『三重魔法トリプルマジック』は魔法の重ねがけで魔法を強化できますし、『闇属性化』なんて魔法を闇魔法化して、魔族にも効果を与えられるようにできる能力ですし」


「そんなにすごい能力なのね……」


 バーバラも驚きで目を見開いている。

 その他のメンバーからも驚きの声なき声が伝わってくるようだ。


「『超再生』ってなんですの?」


 フレンダがいい感じに喰いついてくる。

 自分の職業に興味が出てきたようで、レヴィンとしても嬉しいことだ。


「文字通り、自分が傷ついてダメージを負っても、傷が瞬時に回復、再生する能力だよ」


 フレンダは最早言葉もないようだ。その口から小さなため息が漏れるのが解る。

 オレリアも嬉しいようで、フレンダといちゃついている。


「あッ『使い魔使役』なんて素敵ですねッ」


「そうですね。どんなものかは僕にも解らないんですが」


 ヘルプ君の説明が、「使い魔を使役できる」と言う事だけなので、詳細が解らないレヴィンであった。


「まぁ、レヴィン様にも解らない事があるんですのね」


 フレンダがそう言ってコロコロと笑う。

 いつもこの笑顔でいられるようにしないとなと、レヴィンは強く思った。


 そして、夜は辺りを闇に染め上げてゆく。

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