第23話 中学入学


 初めての戦いの後も春休み中は毎日精霊の森に通った。

 依頼を複数同時に受注し、討伐依頼のある魔物だけでなく、森の中で出会った魔物達も倒していったので、戦い方も洗練され結構強くなる事ができた。

 そんな春休みがあっという間に過ぎ、四月に入った。

 レヴィンとアリシアとシーンは小学校を卒業し無事、魔法専門の中学校に入学した。


 ダライアスは家の手伝いをしている。

 獣の肉とお金が入るようになり生活が改善されたため、彼の母親のブリアナが味方に回ってくれたらしく、親父さんはダライアスに強く言えなくなってしまったという話だ。

 

 今日は入学式である。

 学生が平民だけであった小学校とは異なり、中学校からは貴族も入学してくる。

 レヴィンはどうか学生生活が平穏でありますようにと願わずにはいられなかった。

 式は粛々と進行した。国旗掲揚、国歌斉唱に始まり、入学生代表の挨拶はベネディクト・フォン・マッカーシーという貴族が行った。

 その後、現役の生徒代表と学長が送辞を述べて何事もなく式は終了した。


 入学式が終わると生徒たちの顔合わせが行われる。

 クラス分けの紙が張り出されて見に行ったところ、レヴィンはSクラス、アリシアはBクラス、シーンはAクラスと見事にバラけてしまった。

 これは入学試験の実技試験と筆記試験の成績をもとに決められているようだ。

 レヴィンは推薦入試だったため、面接と実技試験のみで筆記試験は受けていない。

 プレートにSクラスと書かれている教室に入る。

 そして名前が貼られている机の場所を確認して席に着いた。

 どんどん生徒達が入ってくる。中学校は制服のため、身なりで身分を判断する事はできなかった。

 判断材料は生徒の持つ雰囲気くらいだったろうか?

 この中に平民はどれだけいるのだろうとレヴィンは少し不安になっていた。

 全員分の席が埋まると、次は担任らしき大人が入ってきた。

 大柄で魔法ではなく、肉体言語の方が得意そうな感じがする。

 金髪で目がとても細い。糸目の男性だ。


「ほらッ! 静まれッ!」

 

 ざわついていた教室が静まりかえる。


「俺はこのSクラスの担任になった、エドワードだ。貴族も平民も区別なくしごいてやるからそのつもりでいろッ!」


 声も大きいが態度も大きい。

 いや、先生なのだから態度は別に大きくても構わないのだが……。


「では、各自自己紹介だ。廊下側から順番な」


 自己紹介がはじまる。どうやら五十音順のようだ。

 平民には姓がないので名前の順番なのだろう。

 直にレヴィンの順番が回ってきた。レヴィンは前世界では二十四歳であった。

 他の生徒はたかだか十二歳である。そんな若造を前にして緊張する訳がないと思われるだろうが、意外とそうでもなかった。

 貴族がいるという事で流石のレヴィンも少し緊張していた。

 前の人達に倣って名前、身分、職業クラスを言ってゆく。最後に一言言って自己紹介を終える。


「……という訳で、身分に関係なく仲良くさせてもらえたら嬉しいです」


 まぁ無難な挨拶だろう。クラス内ではなるべく目立たないように……。

 そう思いつつ、着席する。

 聞いていると、このクラスには黒魔導士、白魔導士、付与術士、精霊術士、賢者、大魔導士がいるようだ。

 黒魔導士が一番人数が多かった。時魔導士はいなかった。


(大魔導士ってお前、それ俺が神様に却下された職業じゃねーか!)


 入学生代表の挨拶をしたベネディクトも同じクラスのようだ。

 ちなみに彼の職業クラスは賢者だった。最初から上級職とか神様ひどい!

 レヴィンは神様にぶーたれておいた。

 まぁ聞こえるはずがないだろうけど、と心の中でつぶやいた。


 全員の自己紹介が終わると念を押すように担任が言った。


「学内では基本的に名前で呼び合うように。身分の違いにこだわる奴は鉄拳制裁な」


 魔法専門学校なのに制裁は物理なのかと思う。

 しかし、中々まともそうだ。良さげな担任で安心した。


「ああ、そうだ。クラス代表はレヴィンな。異論は認めない」


(はぁああああ!?)


 前言撤回! いきなり目立ってどーする。


(なんで俺なんだよ……。入学生代表の挨拶をした、ベネディクトで良いじゃねーか!)


「早速、初仕事だ。起立、礼、さようならで」


 レヴィンは仕方なくそれに従った。各生徒も戸惑いながらもそれに倣ったのであった。後方を振り返るとベネディクトが期待に期待のこもった眼差しを向けてきた。

 普通にスルーしておいたが。


「んじゃ、今日は解散な。明日から皆よろしくなッ!」


 担任はそう言い終わると、さっさと教室から出て行った。


 レヴィンはあっさりと初日が終わったので少し校内をうろついてみる事にした。

 まだ午前中なのだ。

 一階から周ってみる事にした。ちなみに建物は三階建てである。

 Sクラスを出て当てもなく歩き始めると、大きな部屋を見つけた。

 いい匂いが漂っている。どうやら食堂のようだ。


「なんだなんだ。早弁か?」


「いえ、新入生です。入学式も終わって解散になったので」


「ってーと、うちは初めてだな。食べてけ食べてけ!お勧めは日替わり定食だな。なんと大銅貨三枚だッ!」


 禿頭のおっさんが食事を勧めてくる。ただじゃないのか……。

 

「話は聞いたよッ! 学食よりもパンでも食べていきなッ! 今なら売り切れ必至の伝説の焼きそばパン、大銅貨一枚だよッ!」


 今度は食堂内にいたパン売りのおばさんが声をかけてきた。

 それにしても伝説の焼きそばパンだと……?

 十中八九、異世界人……しかも日本人が教えたろってパンだな。

 レヴィンは意外なところで異世界人の痕跡を見つけられて少し嬉しくなった。


「じゃあ、焼きそばパン一個でお願いします」


 レヴィンはお金を払うと、早速かぶりついた。

 

(懐かしい味ッ! 旨しッ!)


 中学では弁当を母親に弁当を作ってもらうか学食で食べるか迷うところだ。

 食堂を出ると中庭を見つけた。

 学校の中央部分にあたる場所のようだ。緑があって良い。

 ベンチや芝生が整備されており、ここで食事を摂る生徒も多そうだ。 

 いったんSクラスに戻り、反対側へ向かう。

 教室がSクラスからEクラスまで並んでいる。

 Eクラスの向こう側には玄関と階段があり、さらに進んでいくと空き教室が何部屋かあった。その先にも何か部屋があるようだ。


(この匂いは……本の匂いだッ!)


 どうやら図書館のようである。

 早速、中に入ろうとすると入口で机に向かっていた人――司書だろうか?――に止められた。目つきが鋭く、少しきつそうに見える女性だ。


「学生証を提示して」


(がーん! 学生証なんてもらってませんが?)


「新入生なんですが、学生証はまだもらってないのですが……」


「おかしいわね。入学日に全員にもらえるはずだけど……職員室が二階にあるから聞いてみなさい」


「解りました」


 レヴィンは素直に二階の職員室に向った。

 場所は上がって右手にあったのですぐに解った。

 扉をノックして戸を開けると何人か先生がいた。

 Sクラスの担任の姿を見つけると、「失礼します」と言って彼の下に向う。

 向こうもレヴィンの姿を見つけたようだ。驚いている。


「レヴィンじゃねーか。いきなりどうした?」


「いえ、図書館に入ろうとしたら学生証を見せろと言われまして……」


「ああッ! 忘れてたッ! すまんすまん」


 担任のエドワードが頭をかきながら学生証を手渡してくる。

 それを両手で受け取ると、一つ思った事を質問してみる事にした。


「そう言えば、何で僕がクラス代表なんですか? 代表の挨拶をしたベネディクトで良いと思うんですけど……」


「ああ。実技試験で目立ってたからな。お前」


(ええ……。自重したつもりだったんだけど……)


 レヴィンは脱力感に襲われながらもエドワードに挨拶をして退室し、再び図書館に向った。

 司書に学生証を提示すると今度は中に入れてくれた。

 早速、魔法関連の書籍がないか調べる。

 最初に見つけたのは『歴史』のプレートであった。

 『アウステリア王国史』、『世界史』、他にも結構な数が揃っている。

 

(魔法最優先できたけど、この世界の事を知るのも大事だよな……)


 レヴィンは『世界史』の本を手に取ると、パラパラとめくった。

 ルニソリス歴1500年シ・ナーガ帝國動乱。悪魔デーモンの暗躍により……。

 しばらく目を通したが、ここら辺は一般教養の授業でやるだろうと思い直し、すぐに本をしまう。

 違う場所に目を向けると、今度はプレートに『魔法』の文字を見つける。

 『猫でも解る魔法入門』、『黒魔法の応用』、『図解!神代の言語』

 うむ。街の図書館で見た事のない本もあるぞ!これだけで中学に入った甲斐があるってもんだ。

 『黒魔法の応用』のページを開こうとしたその時であった。


「いたーッ!」


 図書館にアリシアの声が響き渡る。


「図書室ではお静かにッ!」


 すぐさま、司書に大声で注意されるアリシア。


「す、すみません……」


 彼女は誤りつつ、こちらに近づいて来る。

 シーンも一緒のようだ。

 アリシアは今度は声を潜めて言った。


「もう……遅い遅いと思ってたらこんなところにいたんだねッ! 待ってたんだよッ!」


「ええ……待ってるとは思わないよ……ちょっと探検してたら図書館見つけたからさ。ちょっとね」


「ちょっとね。じゃなーーーい!」


 流石アリシアだ。声を潜めながら怒鳴るという変態技を繰り出してくる。


「どうせ帰っても暇じゃんか。教科書も明日にならないともらえないし何もできないよ」


「ぐぬぬ……」


 ぐうの音も出ない正論にアリシアが沈黙する。


「アリシアももっと本を読めばいいと思うんだよ。ほらッこれなんかどうだ?」


 そう言うとレヴィンは一冊の本を手渡した。


 『ゼロから始める付与術士生活』


「うぅ……解ったよ……」


 観念して本を受け取るアリシア。

 シーンも本を物色している。

 レヴィンも読書を再開する。

 

「おッ、新魔法発見。睡眠の魔法か……」


 結局その後は読書会と相成ったのであった。

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