第17話 カルマへ⑤
「荷馬車後方の森の方から敵来襲ッ!」
その第一声は、森側の最後尾を見張っていた、テオドールのものであった。
その声に全員が森の方に目を向ける。
ここら辺の街道はもう、すぐ側まで森が迫ってきている場所である。
敵はどうやら
ちなみに
両者とも同じように額に角が生えているが、
先頭を行く
「おいッ! クロスボウを持ってるぞッ! 散会しろッ!」
再びテオドールの指示が飛ぶ。
同時にテオドールとギース、ジェニー、ファバルが軍勢の方に向って行く。もちろん射線に入らないように。矢は撃たせない! レヴィンが魔法を放つ。
「
荒れ狂う風が先頭でクロスボウを構えていた
その時、今度は荷馬車の進行方向からも敵が現れる。
「敵だッ! こっちは俺達に任せろッ!」
挟み撃ちを読んでいたのだろうか? 未だ位置を移動していなかった、イザークが吠える。イザークの方に目をやると、五人の
イザークとイーリスが敵に突撃を敢行している。
その間にテオドール達はクロスボウを持っていた
レヴィンは
おそらく
「「
レヴィンとラッドの声が重なる。
その風の刃は武器で防ごうとしたその武器ごと
やはり黒魔法Lv3の魔法である。強い。風の刃強い。
テオドールは
(あいつ、魔物のくせに良い剣持ってんな。こっちは何とかなりそうだ)
他の三人は
レヴィンはこっちは任せたと言って荷馬車の前方に向う。
そこで見たものは
イーリスも負けず劣らず奮戦している。
やはりこの二人は強い。
レヴィンは二人を巻き込まないように最後尾にいた他の鬼より巨体の鬼に狙いを定める。
「
その巨体の
(くッ! 倒せないか。この間合いじゃ二人を巻き込んでしまう)
イザークも相手が
レヴィンは巨体の
近づいて
「
巨体の鬼は持っていた武器で刃を薙ぎ払おうとする。
(ふはは、馬鹿めッ! 武器ごと斬られろッ!)
レヴィンは勝利を確信する。
しかし……予想に反して風の刃の方が吹き散らされる。
(マジか! こいつも良い剣持ってんなッ!)
レヴィンは大きく後方に飛び退ると、切り札の魔法を放った。
「
レヴィンを追って間合いを詰めて来ていた巨体の
巨体の
そいつが倒れたのを見て、残っていた
(よし間合いは十分だ)
「避けろッ!」
レヴィンはイザーク達に向って叫ぶと魔法を放つ。
「「
今度はイザークと声が重なる。
爆裂した炎は、その舌を
その炎は十人ほどの魔物を焼き尽くした。
大勢は決した。
前方では
後方でもほとんどが打ち取られ、テオドールと斬り結んでいた
魔物が森の中に逃げ去るのを確認した一同は魔石の回収を始める。
回収が終わると森の近くに魔法で穴を掘って魔物の死体を放り込んだ。
今回も倒した分の魔石をゲットする事ができた。
巨体の
あと、
レヴィンは穴に火炎魔法をぶち込みながらニンマリと笑った。
それを横で見ていたのかイザークが話しかけてきた。
「何笑ってんだよ。気持ち悪い」
「いえ、思いがけずいいものが手に入ったので……」
「それにしてもお前、結構腕がたつな。良い冒険者になると思うぜ」
「本当ですか!? ありがとうございます」
「今何歳だ? 早く前衛職に
「十二歳です。早く世界を回ってみたいのは山々なんですが、四月から中学校に通うので本格的な冒険者稼業はまだまだですね。イザークさん達はどうして旅をしてるんですか?」
「んあ!? 若いな。まだまだ伸び代は十分じゃねーか。俺達の目的は……そうだな。強くなって色んなお宝をゲットするってぇ感じかな?」
少し歯切れの悪い回答におや?と思うが何か事情があるのだろう。深く突っ込まないでおいた。
魔物の処理が終わると一行は旅を再開した。
それからの旅路はまったくの順調で、言ってしまえば退屈なものであった。
一泊野営して、夜の十八時にカルマに到着した。
城門で衛兵による検閲を受けて特に問題がなかったので、一行は街に入った。
街はすごい人数であふれかえっていた。
活気があり、人々が生き生きとしている。また、街全体がざわついている、まるで一つの大きな生き物のようだ。
まず冒険者ギルドに寄り、ハモンドに契約の履行を証明してもらい、報酬を受け取った。ギルドはかなりの大きさだった。王都の冒険者ギルドよりも大きいのではないだろうか? ハモンドは今回も丁寧にお礼を言うと自分の商会の拠点に戻って行った。
「俺達はしばらくはここを拠点に活動していくつもりだ。縁があったらまた会おうぜ」
イザークはそう言うと片手を上げて去って行った。
宿を探しにいったのだろう。
彼を見送ると、レヴィンはテオドールに聞いてみた。
「テオドールさん達はどうされるんですか?」
「まぁ拠点は王都だったんだけどもうCランクになってしばらく経つし、自分達もしばらくここで腕試しだな」
ギース達は早速、掲示板を食い入るように見つめている。
依頼数も段違いの量が貼り出されている。
テオドールも気になっているようだ。
レヴィンはテオドールに別れを告げると、『丘の向こう側』のメンバーの下へと向かう。彼等は受付で何か確認しているようだ。
「チャーリーさん、お疲れ様でした。これからどうされるんです?」
受付から離れると彼は笑いながら言った。
「まぁ、うちらはランクDだし、ここでやっていけるかも解らないからな。まだ決めてないよ。依頼を確認してからだな。まぁ受付でランクDでもやっている冒険者はいるって聞いたから何とかなるかもな」
「Dランクの冒険者もいるんですね。依頼数も多いし、 み な ぎ っ て き た!」
「まぁ、そういうことだ。それじゃあな」
笑みを浮かべてそう言うと、チャーリー達も掲示板の方へと向かっていった。
これからどうしようかとしばらく考えていたのだが、腹がぐうとなったので、先にご飯を食べる事にした。
レヴィンは冒険者ギルドから出ると、匂いに釣られて飲食店が軒を連ねる区画へと足を向けたのであった。
人ごみをかき分け進んで行く。多くの店の前には簡易メニュー表のような黒板が置いてあったのでどんなものを扱っているか解りやすい。
ちょうど興味を惹かれた店があったのでそこに入る事にする。
中に入ると、大衆食堂のような雰囲気を持った店内の作りになっている。
こんではいたが、空席があったようでそこに案内される。
レヴィンは表の簡易メニューにあった仔フォグシープのワイン煮込みとパン、サラダにマスカテテジュースを注文した。
当然店内にテレビなどない。暇を持て余した彼はわくわくしながら客同士の会話を盗み聞きして過ごす事にした。
「今度、ここより東に開拓村を作るんだってよ」
「うへー、ここより東に作るとなるとそこが最東端になるってぇ訳か? 領土的野心を持っていると勘違いされやしないか?」
「エクス公国にか? でもあの国も結構各地を開拓していってるって聞くぜ?」
「なんだなんだ。どこの国も拡張主義ってか」
「まぁなんだ。この世界はまだまだ人間の手が入っていないところが多いからな。人間様の暮らしが発展するってぇならいいじゃねぇか!」
「北の辺境でヴァール帝國と一戦交えたって話があるみたいだな」
「ああ、あれだろ? ランクA冒険者のローランが自分のパーティと自警団みたいなのを率いて国境を越えた帝國兵を奇襲したってやつだろ?」
「いいねえ。冒険者が晴れて貴族様か。男爵だそうだが、儲かるのかねぇ?」
「与えられたのは、国境沿いの小さな村だってんだ。そりゃ儲からねえだろ。むしろこれから金ばっかりかかるに決まってる」
「まぁローランも『
「ははッ違いねぇ!」
「北東のインペリア王国で小麦の価格が高騰してるらしいぜ」
「うはッそりゃあ商機じゃねぇか。商人のヤツらこのチャンスを逃す手はねぇだろ!」
「俺らも王国の小麦を買い占めて輸送するか? 一儲けできるかもだぜ」
「馬鹿言うんじゃねぇよ。輸送する荷馬車もねぇ、農業ギルドとのコネもねぇ、長距離輸送のための護衛もいねぇ、そもそも金がねぇ。ないないづくしじゃねーか!」
「確かにな。それに俺らは気楽な冒険者稼業が一番だぜッ」
うん。面白い。
というところで料理が運ばれてきた。
早速、「いただきます」と言い、ナイフとフォークを使って食べ始める。
(おおッ柔らかくて美味しい! こっちのサラダは……なんの葉っぱだろう。量は少ない。それにしてもナイフはともかくフォークの作りは結構な出来だな。
心が美味しいと叫びたがっているんだッ!
(フォグシープなんて精霊の森にはいなかったな。狩りか? それとも牧畜? かなり美味しいから覚えとこう)
食事を堪能したレヴィンは勘定を払い、店員に「美味しかったです」と伝えると、猫耳の獣人がもふもふした耳をピクつかせながら喜んでくれた。
猫耳かわいいよ猫耳。
獣人はいいものだと思いつつ、店を出る。
次は宿探しだ。冒険者の街って言われてるくらいだから宿なんて腐るほどあるだろと思いつつ、宿屋を探すレヴィン。
宿屋のアイコンってどんなのだろと思い斜め上に視線をやりながら道を進む。
人の往来が多くて中々前に進めないせいもあって中々見つからない。
仕方がないのでそこらの客引きに宿屋街はどこか尋ねてみた。
親切にもしっかり教えてくれたので、言われた通りに進んで行く。
この通りでも客引きが盛んに行われているようだ。
宿屋にアイコン――ピクトグラムってやつだ――はないようだ。
レヴィンは客引きに値段などを確認していく。その中で一番安い宿に決めた。
イシマツ屋と言うガッツがありそうな名前だ。
店も小奇麗だし、問題はないだろう。
チェックインを済ます頃、時間は既に二十時になろうとしていた。
今日はゆっくり休んでまた明日活動しよう。
そう思ってレヴィンは部屋へと向かった。
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