第10話 春休み
三月に入り気候も大分温暖になってきた。既に学校は春休みに入っている。
三年生であるレヴィン達は中旬には卒業式を迎える。
アリシアも中学校受験を終え、三月上旬の合格発表を待つのみとなっていた。
レヴィンは自由登校になってからこっそり南の精霊の森に入り浸っていた。
目的は、魔物を倒して強くなる事と、先月に出会った
現状では黒魔法を覚えるのに必要な魔導書の入手が困難なため、他の
レヴィンは少なくとも王都で覚えられる低級の魔法は全て習得していた。
まぁ厳密に言えばまだどこかに眠っている魔導書に知らない低級魔法が記載されている可能性もあるのだが。あと、
神殿にも通った、お布施をすれば初歩的な魔法は教えてもらえるようだ。
簡単な白魔法と、神聖魔法が覚えられるようだ。
最初は神殿では戸籍で職業を調べられるかと思い、警戒していたのだがそういうことはなかった。金さえ積めばある程度は教えてもらえそうな感触が神殿勢力にはあった。
レヴィンはレベリングに平行して情報収集も密に行っている。
朝刊を読むのはもちろん、時間を見つけては未だに冒険者ギルドの資料室や図書館にも通っている。
魔法に関しては特に目新しい情報はないが、その他の分野についてはまんべんなく知識を吸収するようにはしている。
最近、王都で話題なのは新しく貴族が興ったという話だ。
なんでも、Aランクの冒険者が数十人の冒険者と村人を率いて北のヴァール帝國から王国辺境の村を守り、敵兵に大打撃を与えたらしい。
たいていの冒険者は国家に対する帰属意識は薄い。そのため、国境など気にせずどの国にも移動するし、どの国でも依頼をこなす。
また、国家の戦争には一切関与しない。これは冒険者ギルドの基本スタンスでもある。しかし戸籍を制度化し、国民教育で帰属意識を高めているアウステリア王国の冒険者は少し事情が異なるようだ。
貴族になったのはAランクで同じくAランクパーティ『
王都は今、新たな英雄の誕生に沸いていた。
レヴィンは朝、朝食を取りながら朝刊を読んでいる、父グレンの様子を窺っていた。
いつもと違って今日は眠たそうだ。昨日遅くまで仕事していたのだろう。
少し冷めた野菜と肉のスープをちびりちびり飲みながらレヴィンは切り出した。
「ねぇ父さん、春休みに入って少し遠出してみようと思うんだ。カルマの町まで行ってみたいんだけど」
すると、グレンは朝刊に目を落としたままで言った。
「なんだ。魔の森にでも行く気か?」
普通にバレている。カルマの町は王都東の魔の森に近い場所にある。
レヴィンは少し緊張しつつ正直に答える事にした。
「精霊の森での狩りはもう慣れちゃったんだ。魔の森で自分をもっと鍛えたいと思っている」
「ダメだ。回復もできないのに怪我をしたらどうする? 死に直結するんだぞ」
返事は予想した通りのものだった。
もちろん自分で回復は可能なのだが、転生に関する事は秘密にしているので触れない。
「解ってるよ。王都かカルマの町で白魔導士かアイテム士を探してみる」
「そうそうパーティに入ってくれるヤツなんていないぞ? アイテム士も白魔導士も貴重だし、神殿に取り込まれていたり、もう他のパーティに所属していたりする者がほとんどだ。フリーのヤツを探すのは難しいだろう」
厳しい現実を突きつけるグレン。
「そうだ。学校とかでも探してみるし」
「もう卒業だし、今は春休みだろ。どうやって探すんだ?」
いっそもう秘密を話してしまおうかとも考える。そうするメリットとデメリットについても考え始めるレヴィン。
「とりあえずカルマの町まで行ってみるくらいならいいかな? 護衛の依頼で複数の冒険者が募集されてるんだ」
「確かに定期的に町から町へと移動する商人の護衛は常時依頼でよく出されているな。本当に町まで行くだけならいいが、お前はこっそり森へ行くだろ? 絶対に」
レヴィンの性格はお見通しのようである。さすが親である。
「アリシアも連れて行きたいんだけど……」
「尚更だめだ。よそのお子さんまで巻き込むな」
にべもなく断られる。
その時、リリナから助け舟を出される。
「貴方がついて行ってあげたら?」
それでもいいんだけど、転生について話していないだけに、黒魔法以外使えなくなるしな~と悩む。
「まぁもう大人なんだから自分で色々やってみるのはいい。だが、回復役がいないのだけは許可できない」
グレンの答えは変わらない。「とりあえず探してみるよ」と言って話を切り上げる。
そしてさっさと朝食を平らげると冒険者ギルドに行ってみることにした。
冒険者ギルドでまず見たのは仲間募集の掲示板であった。
実は、レヴィンも募集依頼を出していた。アイテム士や白魔導士はやはりどこからも引っ張りだこのようだ。
他にも多数のクランが募集を出している。
レヴィンは募集依頼に未だ反応がつかないのを確認して、ギルド内の派遣部に顔を出す。
「アイテム士か白魔導士の派遣はありますか?何だったら
「ちょっと待ってねー。えーと」
そう言うと受付嬢は書類の束をめくり始める。
「ちょっとないわね。あ、
「その人の
「『爆裂拳』、『波動拳』、『チャクラ』の三つね。」
そうか。『オーラ』があれば他人も回復できるようなのだが……(ヘルプ君情報
ちなみにチャクラは自分の回復のみ可能である。
レヴィンはお礼を言って受付を後にした。
その後も、行った事のある店を周り、フリーのアイテム士や白魔導士がいないか聞き込みするもやはり見つかりそうもない。
カルマまでの護衛依頼の募集は明日までだ。
カルマまでの道中に戦闘が起こる可能性はどれくらいであろうか?
レヴィンは依頼料が欲しいのではなくて自分を強化したいのである。そのためには戦闘が必要である。戦闘となるとやはり森に入るのが一番だろう。
レヴィンは精神的に疲れたので、気分転換に精霊の森の
秘密基地には例の
警戒感もほとんどなくなったといっていいだろう。
レヴィンは三人に挨拶すると、
「突然であれなんだけど、皆って
するとギズはポカンとした顔をしながらも代表して答える。
「我らは
メリッサ
でも
「はえ~メリッサ回復魔法が使えるのか? そう言えば村の
「人間の魔法とは違うト思うけど回復はデキルわよ。村には
そうなのかとレヴィンは理解する。
(結構、
「そっかー。三人ともいつも冒険してるんだよね? もう立派な冒険者じゃないか。一緒にパーティ組めたらいいのにね」
レヴィンがいかにも残念だと言った口ぶりでそう言うと、ジェダが悲しそうに口を開いた。
「人間は我等ヲ敵とみなしてイル。無理に決まっテいル」
レヴィンはジェダが悲しそうにそう言ったのを意外に思った。
それだけ警戒感を解いてくれたのだろうと思う事にした。
(結構嬉しいもんだな)
レヴィンは自分が微笑んでいる事に気づいた。
「そっか。また来るよ」
そう言うと秘密基地を後にした。
レヴィンは帰り道に遭遇した、フォレストウルフを二匹狩ってから家路についた。
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