第7話 作戦会議と来訪者

 夜。夕食を終え、風呂を浴びてきたエグゼは宿屋でまだ何か作業しているソウマに話しかける。

 ソウマは机に向かい、何かを書き記していた。

「寝なくて良いのかソウマ?」

「あぁ、もうすぐ終わる」

 ソウマが羊皮紙に描いていたもの、それは、このあたりの地図だった。

 今まで旅をしてきた場所の詳細な地図が、そこにはあった。

「この地図って、ソウマの手書きだったのか!?」

「あぁ。旅をしながらずっと描いてきたんだ」

 まだ空白の部分はあるが、それでもソウマが辿ったであろう道のりは、すばらしく緻密にかかれていた。

 王政グランベルトの王、ミハエルがしたことの一つに詳細な地図や各地に眠っている鉱石や宝石、レアメタルの取れる鉱山や洞窟の情報を全て奪ったのだ。

 もちろん地理を把握してる人も居るだろうが、地図のごとく明確に答えられるわけでもない。

 もし地図を手に入れるとすれば闇のマーケットで、たまに破格の値段でやり取りされているのを買うしかない。

「しかたがないから、俺が自力で描いてるんだよ」

 サラサラと地図をかき、さらには多数の丸、文字が書き込まれていた。

 ──この地は低高がかなりあり、林のようになっている。地の利を覚えればゲリラ戦が有効。

 ──この森では、植物系のモンスターがいるため、不用意に近づかないこと。

 など情報も多数あった。

「そんなことまでやってるのか……」

「まぁ地図はあって困るものでもない」

 軽口は叩くものの、すごい記憶力である。

「それより今日の最後の質問、どんな意図があったんだ?」

 ソウマは、嬉々として身を乗り出してきた。

「あぁ、そんな深い意味はないよ。だいたいの町や村には、その土地を守る精霊がいるんだ」

 そしてそれらを使役でたり、薬学に長けた魔法使いが医者代わりにいたりしたものだ。

 しかしビーンの言ったとおり、今は魔法力がないためほとんどがこの世界に存在することができない。

 そういった精霊たちがいなくなり、土地が荒廃してしまったのも、飢饉や自然災害の増えたのも事実だ。

 精霊は実態を持たず。世界に満ち溢れている魔法力、または召喚者の魔法力を肉体として、精霊界からこの物質世界で存在することができる。

『黒のカーテン』はこの大陸に満ちている魔法力ですら、この大陸から奪って見せた。

「でも一つだけ、『精霊の寝所』と呼ばれるスポットでは精霊は存在することが可能、という確立が高い」

「『精霊の寝所』か」

 ソウマはメモを取りながら、話を聞いている。

「まあ坑道内に入れば、精霊がいたかどうかすぐ分かるよ」

「なるほどなぁ、俺のいた大陸じゃあ精霊の話なんて聞いたこないぜ。

 こんなにも違うことがたくさんあるとはなぁ」

 ソウマの荷物の中は。たくさんのパピルスや羊皮紙が詰め込まれていた。

 これらすべては、今のように自分で見聞きして、知らないことを書き留めているのだろう。

(ソウマは一体何者なんだろう)

 強力な戦士であることには代わりないのだが、それだけではなく博識でとても一介の武道家とは思えない。

 ソウマがいた大陸がどのような場所かは分からないが、話を聞いた限りではそこまで教育体制が整っているようには感じなかった。

 文字の読み書き、『メリクリウス』の運営方法など確かな知識と経験に裏付けられたモノがある。

 そもそもこの大陸と言葉は同じなのだろうか?

 もし違っているとしたら、この大陸に来てまだ間もないうちに、言葉も文字もおぼえたことになる。 

 元の大陸でも、それなりの地位にいた人間なのではないだろうか? 

「よっし、今日は終わり! ちゃんと宿題やったか?」

 宿題とは、素振りや筋トレなどの基礎体力作りだ。

「やって、風呂入ってきたばかりだよ」

「そっか、じゃあ俺もはいってくっか!」

 鼻歌を歌いながら、意気揚々風呂に行く姿は、歴戦の勇士とは思えなかった。

 ソウマが風呂にいってから数分。

 トンっトンっとノックをする音が聞こえた。

 あのソウマがノックをするとは思えないし……。

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