第3話 旅は道連れ
朝。
目を覚ましたエグゼはバネでできた人形のように勢いよく飛び起きた。
「おはよう、よく寝てたな!」
傍では、昨夜の焚き火の残り火を使って、ソウマが朝食を作っている。
しかし、見るたびに料理を作っている男である。
「僕は、寝てたのか?」
「自分で寝てたかどうかわからないとは、頭は大丈夫か?」
よっ、鍋の中の食材をひっくり返し、その上に調味料を振り掛ける。
エグゼは驚いていた。
もちろん、自分が寝ていたことは理解しているが、こうも深く寝入ることは2年前のあの日から一度たりとも無かったからだ。
「そろそろ出来上がるから、ちょっと待ってろよ」
焼きあがったそれを皿に移し、次は干し肉を取り出す。
「昨日も思ったんだが、料理、できるのか?」
昨日の、鬼神のごとき強さを誇った男とは思えぬほどの慣れた手つきだ。
「なに、長旅だ。飯はうまいほうがいいだろう。お前さんはできないのか?」
「そんなこと、考えたこともなかったな……。保存食か、狩った獣の肉を燻製か干したものしか食べてなかったな」
「だから、いざというとき力が出ないんだよ!普段からしっかり休んで無いみたいだしな。よく食べて、よく寝る。効率よく動くには、必要不可欠だ」
干し肉と香草の香ばしい匂いが森に漂う。
「大丈夫か? 火だけでなく、こんな匂いまでさせて、敵にここにいるとアピールしてるようなものだぞ?」
エグゼは警戒するようにあたりを見回す。
今のところ不穏な気配はなさそうだが…。
「大丈夫だよ。周囲1キロ以内には獣しかいない。野生の動物はよほど腹が減ってない限り、人間の気配があれば近寄ってこないしな」
「気配って、そんなことまでわかるのか?」
ソウマに特に辺りに気を配ってる素振りは無い。
魔法も使わずにそんなことができるのだろうか。
「なんだ、お前さんはできないのか?」
「魔法を使えていたときはできていたけど、結界が張られてからはできなくなったな」
どれだけ魔法に頼っていたか。
魔法が使えない自分が、どれだけ何もできない人間なのか、思い知らされた。
「俺のいた大陸だと、魔法や魔法科学がこのエルミナ大陸ほど発展してないからな。魔法力があって、魔法を使える人間が少ないんだ」
その割りに戦が多く、そのためソウマのような魔法を使わないでも強力な戦士が多数いる。
「ソウマは別の大陸から来たのか?」
「南方にある、最近独立した国だ」
もっとも、つい最近の出来事なので、逃げ回るように生活をしていたエグゼは知る由もなかったのだが。
「まぁ、戦争ばっかやってりゃあ強くもなるさ。かく言う俺は新しくできた国の主戦力として各地の豪族なんかをぶっ倒したわけだ」
自分で作った料理を食べながら、ソウマが自分のことを話しはじめる。
「俺みたいな生粋の戦士には、戦争の無くなった国でできることなんて無いからな。このエルミナ大陸とも交易を始めたから来てみたんだ。王が代わったのは知っていたが、まさかこんなことになっているとはな……」
とても。とソウマは続けた。「人間と魔物が共存する、とてもいい国だと聞いたんだ。こんな現状とまでは伝わってなかったけどな」
今まで見せたことの無い表情でつぶやく。
自分の憧れていた物が幻想だった時の嘆き。
「だから俺は、俺のできることで、この国を良くしようと思ったんだ」
食事はすでに終わっていて、荷物をまとめ始めている。
なんとなく流れる沈黙。
お互いに荷物は少ない。
荷造りはあっという間に終わり、二人は立ち上がる。
「旅は道ずれ。行く先は一緒だ。どうせならいろいろ話しを道すがら、聞かせてくれないか?」
それは、エグゼにとってもありがたい申し出だった。
「もちろん、こちらからお願いしたいくらいだよ」
「オーケー、しばらくはよろしくな!」
ソウマの差し出した手を、エグゼがしっかと握る。
「ところでエグゼは目的の武具職人でもいるのか? いるなら、ぜひ教えてもらいたいな」
エグゼはその武具職人の姿を思い浮かべながら答える。
「あぁ、シスカの町で一番の職人を知っているが……」
気難しい職人気質の人物である。
「認めてもらうのは大変かもね」
と言った。
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