終章 その14 『野山の花々 vs 雪華草 4 自分の、動かし方。』
リューリ達とのトーナメント一回戦は
得点は
最終エンドで三点を追う展開は
チーム内にも
「ほら、ほら、よく言うでしょ?野球は九回の裏、スリーアウトからって!」
「いや、それ試合終わってるから」
苦笑しながら
「あ、でもでも。静ちゃんの言う事にも一理あるかもよ!?ホラ、お肉は賞味期限が切れてから美味いってボク聞いた事あるよ!」
「そうそう!関西の信号機だと黄色はイケイケ、赤で
そして
「で、ハナちゃん?実際に策は?それともコンシード案件かしら?」
菫先輩が不敵に笑いながら私に問いかける。
私がどう答えるか…否、答えざるを得ないか知っているのだ。
皆の視線が私に集中する。
「もちろん、ありますよ」
間髪入れず、事も無げに答えて見せる。
ここは一瞬でも躊躇ったらダメだ。
そして、照明を反射させてここで眼鏡をキラリと光らせるのがポイント。
「むしろ三点差は想定内です。皆、よくこの点差で抑えてくれました。
すうっと息を吸むと、嗅ぎ慣れた
この香りが心地よく感じている間は、大丈夫だ。
「
皆の顔を見回す。
「一人は皆の為に」
私が愛用の黄緑色のカーリングブラシを氷上に差し出す。
「皆は私の為に?」
「お前のモノは俺のモノ?」
「お前の罪も俺のモノ?」
「お前の過去も、そして未来も俺のモノ?」
私が何となく続ける。
「ナニ、コレは?」
耐えきれず菫先輩が吹き出し、皆が笑う。
調子が戻った。
一通り笑ってから全員で
リューリのヤツは私の顔を一瞥すると、スイッと視線を外し反対側のハウスに滑って行ってしまった。
策?
ある訳ない。
リーダーが「勝つ」と言って「負ける」事はある。
だが、リーダーが「負ける」と言ってしまったら確実にそのチームは「負ける」。
トップに立つ者は例え自分が信じていない勝利でも、チームメイトには信じさせなければならない。
こういう時は
手順を踏むのだ。
冷静に、
私は、意識してふうっと息を吐き出す。
人間というのは苦しくなると、息を吸いたがるものだ。
まずは、吐き出す。
そうすれば自然と息を吸い込める。
そして肺の中だけではなく、指先の毛細血管、脳内の隅々にまで
大丈夫。
冷静に、
冷静の、
客観的に、
私は幽体離脱するかのように、自分の斜め後ろから、自分を、自分達の置かれている状況を眺めてみる。
もっと後ろ。
いっそ、コーチ席まで。
後ろ、だ。
私は意識をコーチ席まで引き、広角に自分達をぼんやりと眺める。
リューリが唯一失敗した事は、最終エンドで私達に
カーリングの試合は、一般的に最終エンドの一つ前のエンドが一番面白いと言われる。
最終エンドは序盤の展開と同じように、決められた道をなぞる事も多い。
大半は一つ前のエンドで勝敗は決しているのだ。
だから、チームの特徴がよく表れる最終エンドの一つ前のエンドというのは、ギラギラしていて面白い。
その一つ前のエンド、リューリ達は点数を取る事に拘った。
やはり戦術面では、稚拙。
私なら、最終エンドの後攻は渡さない。
最終エンドの後攻。
うん、悪くない状況だ。
大丈夫。
客観的に、
客観的の、
策を、
私は目を閉じ、今まで無数に見たカーリングの試合を頭の中で検索する。
最終エンドで三点差をひっくり返した試合。
そして逆転した試合。
…。
……。
………。
…ある。
針の穴を通すような可能性だが。
やってのけたチームが、いた。
その映像を、
大丈夫。
策を、
策の、
私は、心臓で熱した血潮を私の身体の隅々まで流し込み、私に、私自身に唯一絶対の命令を発する。
それは、例え細胞一つと言えど逆らう事は許されない。
策の、
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