終章 その11 『野山の花々 VS 雪華草 1 開戦。』

大会二日目。


そして決勝トーナメント一戦目。

「うへ〜ボク腕がダルいよ〜キンツクツウ」

「筋肉痛?」

「そう、そのキンニクつう

「キンニクつうって変換すると意味変わるね」

「あ、ホント筋肉フェチみたい〜ってイテテ、先輩引っ張り過ぎ!」

浅間 風露あさま ふうろ叡山 菫えいざん すみれ先輩が二人で柔軟体操をしなが、相も変わらずな会話をしている。

昨日丸々一日試合をし続け、体力とモチベーションモチベの低下が心配だったけど。

どうやらWild こっちFlowersのチームは平常運転だな。


私は意図的に息を大きく吐き出す。

そしてアイスの香りを胸一杯に、吸う。

カーリングホール内はいつもの空気で満たされている。

自分の怒りや緊張と言った負の感情をコントロールする時、息を吸わずにまず吐き出す事から始める。

これは私が今まで身に付けてきた呼吸法。

まずは出す事。

人の意見を聞くにせよ、物を買うにせよ。

…きっと恋愛にせよ。

まずは吐き出す、新しいモノが欲しければ捨てる。

真理かもしれない。


そんなカーリングホール内の空気が一段と下がった気がする。

リューリ達の雪華草ダイヤモンドフロストがホールに現れたのだ。

サードの…緑川 紅宇みどりかわ くうだったか?

髪を金色に染め、化粧まで施した派手な少女が先頭。

肩にはブラシを担いでおり、その姿は一歩間違えば大剣をたずさえた切り込み隊長か、木刀を持った暴走族だ。

迂闊に近寄ると切って捨てられそうな迫力がある。

緑川紅宇の後から一見してアジア系のハーフと分かる肌の色が濃い少女と、なんとも形容し難い平凡な少女が緊張した面持ちで入場する。


そして。

カーリングホールの温度を下げた(ような気にさせる)張本人。

氷の冷気をその身にまとい、整った唇から漏れる吐息すらこのカーリングホールより冷たい。

そう思わせる程の美貌と細く釣り上がった鋭い眼光の持ち主。

…機屋リューリが続く。

悔しい程に高い等身と引き締まった身体は、ファッションモデルかサバンナの豹を連想させ。

そしてモデルがランウェイを歩くように、豹が獲物を狙うように、しなやかに、静かに、その蒼い瞳に明確な敵意をたたえてこちらに向かってくる。


お前おま、頼むからそのままパリコレ目指して、サバンナに出掛けて野生化して、二度と私の前に姿現すな。

敵意は真っ直ぐ私に向かっており、思わずそう願わずにはいられない。

Wild こっちFlowersのチームとは打って変わって雪華草あっちのチームは緊張感がみなぎっている。

全くつくづくヤヴァイチームを相手にしたもんだ。

私達みたいな弱小チーム相手にそこまでやる気を出さないで欲しいものである。

「うわ〜目つきヤヴァイって!うちらみたいな弱小チームに本気出さないで欲しいよね、ね?ね?」

私の言いたい事を代弁しつつ失言しているのは一里 静ひとり しずか

ええ、どうせ弱小チームですとも。


シート脇、電光のスコアボード前に両チームが集まる。

中学校を卒業して、たもとを分かって以来、機屋リューリアイツとは初の公式戦だ。


その冷たく蒼い闘志に応えよう。

そしてこのシチュエーションは小説のネタB Lに使わせてもらう。

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