終章 その10 野山乃花 『目の前の出来事をトラブルと受け止めるか、乗り越えるべき壁と捉えるか。』

全日本高校カーリング選手権大会初日。


私達の試合はそれはもう、綱渡りの連続だった。

リーグ内で一位になる必要はなく、なんとか二位になれれば良い。

最悪三位になったとしても今回はチーム数の関係で決勝トーナメント出場のチャンスはある。


リューリ達のAリーグは激戦必至魔の巣窟。

ホント、あのリーグでなくて良かったというのが本音。

一方私達のCリーグはチート級に強いチームはいないがそれでも実力は拮抗している。

アイスの状態や気まぐれなカーリングの神様次第ではどうとでも転ぶだろう。


結果として私達Wild Flowersはリーグ内で他チームと同率二位となった。

ただ、直接対決で私達が勝利していた為、私達がリーグ戦を突破する事となった。

それも勝利した試合は全て一点差というギリギリの勝利。


「一点差ッッ!いつも一点差ッッ!心臓に悪いよ〜!」

浅間 風露あさま ふうろが試合後に叫んでいる。

確かにそうだろう。

最後に私がなんとか一点取って勝利、という展開ばかり。

もちろん私の心臓にも相当負担が掛かっている。

そして今回の私はそれを狙ってやっている。

最終的に一点でも上回り、勝利する。

一試合一試合を僅差で勝利するシナリオ。

いや、まぁ相手チームを圧倒出来る実力があれば良いんだけども。

そんな力は無いわけで。

相手チームの後攻で失点はする。

しかし最少で。

こちらの後攻でスチールされずに得点する。

でも最少。

その結果がこの綱渡り展開となる。


一方。

リューリ達の雪華草ダイヤモンドフロストは点を取られたら取り返す、と言う展開。

良く言えば豪快だが、悪く言えば組み立ては行き当たりばったりでつたなく若い。

私が以前リューリに「チームとして成長していない」とはこの事を言ったつもりだ。


そのリューリ達の雪華草ダイヤモンドフロストと言えば…。

リーグ内一位通過をしていた。

例のエリートアカデミーチームには勝利したが、他チームに負けている辺り、詰めが甘いと言わざるを得ない。


さて、唐突だが。

カーリングをやっていると神様に出会う事が、ある。

いや、どんなスポーツであろうとはあるだろう。

だが、氷上という刻一刻と変化する舞台を相手にするカーリングでは、特にその存在を間近に感じるものだ。

もちろん出会うだけで、こちらの要求は聞いてくれないし、どちらかと言うと意地が悪い。

努力して、努力して、偶然神様の入り込む余地がない程努力して。

それでも数秒後のストーンの行方など、文字通り神のみぞ知る、だ。

ひょっとしたら神様っていうのはなのかもしれないな。


そして、少々意地が悪いカーリングの神様の采配か、はたまた運命か?

ともかく決勝トーナメントの一回戦でめでたく我がWild Flowersとリューリ達の雪華草ダイヤモンドフロストは対戦する事となった。


まったく、ホントに。

一言で、勘弁してくれよ。


一方で思う事もある。

神様っていうのは、きっと突破不可能ムリゲーな壁は用意しない。

もちろん楽は出来ない。

なんとか頑張って、ギリギリ針の穴を通すような可能性をつなぎ合わせて、突破出来る…そんな壁を用意するものだ。

なぁ元親友機屋リューリよ。

きっとこの対戦、お互いの成長の為に必要なんだろうな?

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