終章 その5 機屋リューリ 『タバコの味がする、キス。』
「ねぇ、あなたはヤってたんでしょ?」
「…うん。まぁ、ヤっていたよ」
「ねぇ」
一呼吸。
「
私は最近疑問に思っている事を聞いてみる。
自分が同じ歳の子達のより大人びている事は自覚している。
だから、時として大人達から
あの雨の日。
私はパパの入っている施設で一人の男性に出会った。
がお世話になっている担当のショーコさん。
その
最初は、からかわれているのだと、そう思っていたわ。
でも。
同年代がことごとく子どもに見えてしまう私にとって、彼の行動は心地よく、甘くて刺激的だった。
彼の雰囲気はパパの若い頃に何となく似ている。
パパに甘える事が出来たら…そんなコトを彼はさせてくれる。
いつしか私の隣には彼がいる事が多くなった。
いつものように食事をして、あの日は何故か帰らず少し街中を歩いた。
風が冷たくなってきて、私は身震いをする。
するとリョージさんが私の肩を抱いてくれた。
暖かい。
人は、こんなにも暖かい。
いつの間にか街並みは、妖しいネオンが輝く下品な景色に変わっていた。
そこかしこに男女のペアが肩を寄せ合って歩いている。
私達も、その中に混ざっていく。
このままついて行ったら…。
何をされるのか、想像はついた。
ママの顔がチラリと頭を
でも、
子供の私はいなくなり、大人の私に変わる。
私の埋まらない隙間も、夜の重い重い暗闇も全て忘れて無くなって。
パパに、抱かれる。
否、パパに抱かれる事はできないから。
だから。
パパに一番近い人に抱かれる。
「リューリ」
パパのようでパパでない人が私を呼ぶ。
「君を抱きたい」
低い彼の声が私を包む。
「君は…何も考えなくて良いんだ」
頭の中が痺れる。
目の前の人が、パパに見える。
その時、視界に何故か不快なモノ…見知った顔が飛び込んでくる。
その姿が妙に俗っぽくて。
それは、例えるなら遊園地の着ぐるみの中身を見てしまったような。
瞬間、私は頭から冷水をかけられたように、冷めてしまった。
気が付けば、パパは消えていた。
「…帰るわ」
パパではなく、リョージさんに向かって言い放ちその手を振り解く。
「そうか。なら、今日はコッチをもらうよ」
顎に手を掛けられたと思うと。
いきなり唇を奪われた。
そして。
私のファーストキスは、タバコの味がした。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます