終章 その3 山城玲二 『人を浄化する空気の溢れる町。』
想いは、胸に秘める。
そして気持ちが胸から溢れて抑えきれなくなった時、口から溢れて言葉となる。
それは胸の奥底、心という臓器から出る言葉。
それは心臓とは異なる存在しないが、確かに
だから相手の心に直接響く。
真紀ちゃんに「気持ち悪い」と言われた事はショックだった。
分かってもらえるという考えが甘かったな。
けど世間一般的に「僕のような」存在は「気持ち悪い」のだろう。
だけど、僕がもんじぃに気持ちを伝えて、もんじぃから「気持ち悪い」と言われるのであれば。
それならば、もんじぃに嫌われてこの三人の関係が終わっても良いと思った。
どちらにせよ、僕と真紀ちゃんの関係はもうめちゃくちゃだったから。
真紀ちゃんは
僕も、「もういいよ、気にしてないよ」、とか当たり障りなく答えた。
でも。
僕と真紀ちゃんの関係は元に戻らない。
そもそも僕と真紀ちゃんは日頃どんな距離感で、どんな話をしていただろう?
最早、そこから分からない。
この件があったから、とは考えたくはないけど。
僕はもんじぃを待って帰り道に気持ちを伝える事にしたのだった。
"久しぶりだね、一緒に帰るのも"
そんな世間話から、入ろうかとも思った。
でも、決めてしまうと僕はもう自分の気持ちを言葉にせずにいられない。
自然と心から言葉が、溢れた。
「僕、もんじぃのコト好きなんだ」
僕は立ち止まる。
もんじぃも立ち止まった。
「…そうか」
二人で歩き出す。
「友達じゃないんだよ?恋だよ?恋。付き合いとまで思ってる」
「…そうか」
「…気持ち悪い、だろ?」
「…俺は」
僕はもんじぃの次の言葉を予想しながら待つ。
「…俺はお前の気持ちには応えられない」
立ち止まって、もんじぃは僕を真っ直ぐに見つめた。
やっぱりか。
何を言われても受け止めよう。
そう、今日は心に決めて来ていた。
「…俺は」
もんじぃが言葉を紡ぐ。
僕より頭一個分大きいもんじぃの言葉は、いつも空から降りかかる。
そして、きっと、この話が終わった後、同じように僕らが話す機会は失われるだろう。
なら、ここで隕石でも落ちてきて永遠に全てが終ってしまえば良い。
そんな事まで、この一瞬で僕は考えたと思う。
それくらい、僕には長い時間だった。
「俺は…巨乳好きなんだよ」
頭をポリポリ掻きながらもんじぃが呟く。
「………うん?」
その言葉は僕の予想の斜め上だった。
「俺は巨乳好きだと最初から言っている。お前、巨乳じゃないし」
「……え?」
予想外の言葉に僕は頭が追い付かない。
「えっ…と。じゃあ仮に僕が巨乳だったらどうなの?」
「考えても良い。お前、お菓子くれるし。
その瞬間、秋特有の、湿気を含んだ絵の具色の夕焼け。
そんな香りがする、
子供の頃、思いっ切り泣いた後に見上げた夕焼け空。
母親に手を引かれながら歩いた夕焼け空。
同じ色の、同じ空気の夕焼け空に、僕は今更ながらに気付く。
何処からともなく、
懐かしくて、無性に懐かしくて。
僕は瞳から溢れ出す熱い雫が落ちないように。
もんじぃに泣いてることを気付かれないように。
空を見上げる。
男だとか、女だからとか。
そういう境界線を越えて、僕はもんじぃの好みではなかった。
もんじぃはもんじぃなりに、僕を恋愛対象として捉え、考えてみてくれて、それで好みではないという結論を下した。
もんじぃがどこまで本気か分からないけど。
気持ち悪いと思われる、そんな心配した事が、バカみたい。
それ位、もんじぃの答えは単純で、分かりやすかった。
そんな瞬間。
同時にそれは、僕達…もんじぃも、真紀ちゃんも、三人の軌道が離れ始めた瞬間。
それでも、僕の気持ちは晴れやかだった。
「もんじぃ」
「なんだ?」
「変な女に引っ掛からないでね?」
「変な女ってどんなだ?」
「巨乳で料理が上手くて、君を釣り上げようとする女、さ」
「善処しよう」
いや、もんじぃは引っ掛かるね。
そんな言葉を飲み込む。
少しくらい苦労すれば良いさ。
でもきっと、もんじぃなら乗り越えてしまいそうだな。
「
気が付くともんじぃを蹴飛ばしていた。
もちろん、軽く当てた程度で痛いはずもない。
きっと。
何十年経っても秋が来る度に僕は今日の事を思い出し、そして想うだろう。
君を。
その時も
ありがとう。
さようなら。
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