幕間 前編 『その名は、Wild Flowers』

八月。

私達カーリング部カー部のメンバーは合宿に来ていた。

合宿と言っても何処か他県に行くわけでもなく、来ているのは近

軽井沢町内山の中の別荘地。

夏休み中は普段より長くアイスの上で練習はあったし、今回の合宿は所謂いわゆるレクリエーションだ。

この別荘地は町内の学校と懇意な関係にあり、部活の合宿等で賃貸用の別荘を提供してくれているのだそうだ。

別荘地内にはテニスコートもあり、時期をずらしてテニス部やゴルフ部等も訪れているらしい。

もっとも、ここにはカーリング場などないから、合宿とは名目上だけの本当にお遊びだ。

カーリング部カー部メンバーに混ざって写真部の伊勢原真紀いせはらまき先輩もいるのだから、目的など推して知るべし。

三部屋程ある別荘は女子が占領し、男子部員野郎どもは外でテント生活。

チーム間の連携を良くするたのキャンプだ、等と顧問が言ったところで誰も聞いていない。


最近では温暖化の影響か軽井沢ここでも一時だけではあるものの、日中は30度近くまで気温が上がる。

それでも木陰に入れば涼しいし、何より別荘脇にはせせらぎが流れており、音もそうだが実際近付くとヒンヤリと気持ち良い。


「ん〜風が気持ち良いね〜ハナちゃん」


隣でせせらぎの川辺りに腰掛けているのは浅間風露あさまふうろ

我がチームのサードにして絶滅危惧種のボクっ娘。

ショートヘアに日焼けした肌はカーリングより陸上競技が似合いそうだ。


風露ふ〜う!んだば足さそのせせらぎに突っ込んでみっべ?気持ち良いぞきんもちええぞ〜」

さらにその隣で妖しく眼鏡を光らせているのは叡山菫えいざんすみれ先輩。

我がチームのリード、バイススキップにして、貴重なカーリング経験者。

年齢的には二つ上だが病気が原因とかで学年は一つ上だ。

最近になって私と同類腐っていると判明。

"闇が深くなるのは闇が深いから。"

…そんな人だった。


「おお!?マヂッスか?ヨシ、いっちょやってみんべ」

浅間風露あさまふうろスミレ先輩のノリに合わせて、せせらぎに足を浸ける…。


スミレ先輩に嵌められたな。


しずッッ!ハナ!今だ!浅間風露あさまふうろにジェットストリーム25を仕掛けるぞ」

「了解!アタックチャ〜ンス!」


瞬間、スミレ先輩は風露ふうろの足を抑え込む。

一里静ひとりしずかがさらに、後ろから風露ふうろの腰に齧り付く。

我がチームのセカンド、一里静ひとりしずか

名は体を表さない典型例。

つまり五月蝿い。

私は…そこまではしゃぐ事が出来ずに静観する。


山のせせらぎは基本的には湧き水だ。

雪解け水を原水とするここらの清流は、十秒と足を浸けていられない程に冷たいのだ。


「ぎょえええ〜!はかったな!?シ○ア!!」

「はっはっはっ。聞こえていたら…己の何を呪えばいいんだっけ!?ハナ?」

「生まれの不幸ですよ、先輩」

「そう!それよ!それを呪ってジーク・ジオ○してなさい」

「うぉぉぉ!ジーク・カイザー!皇帝万歳!ラインハ○ト!!」

風露ふうっ!それ作品違うわ!」

スミレ先輩と一里静ひとりしずかが抑え込み、風露ふうろが暴れバシャバシャと水しぶきが飛ぶ。

…冷たい。

…服が濡れる。

…ついでに言うとタブレットPCも濡れる。

でも。

『悪くない』


少しして、三人とも、草むらに倒れ込んだ。

…下に虫やらカエルやらがいても知りませんよ?


「そぉ〜言えばハナ、大会っていつだっけ?」

ハアハア息を切らせながらスミレ先輩。

もちろん先輩が大会のスケジュールを知らないはずは無い。

だからこそ、私はこの質問の意味を汲み取る。


私から他の二人に説明させたい訳だ。 

チームの舵取りははあなたに任せる、と私を立ててくれている。

「えっと、町内の大会が八月末からです。その後オープンカーリング大会が十月。でもって本命、

全国高等学校カーリング選手権、関東エリアトライアルが十二月末です」


「んじゃぁさ、そろそろ私達のチーム名決めようよ」

…そう言えばまだ私達のチームには名前が無い。


「はいは〜いチーム野山じゃダメッスか?」

「ダメッスね。センスゼロだわ」

「乃花のチームとか?」

「悪くないけどあんま変わらないね」

「ハナの団?」

「何かの傭兵団みたい。しかも最終的にしょくで全滅しそう」

「私の名前無理矢理組み込むの止めません?」


「お前らの奇跡的な名前、その面子メンツならWild野生のFlowers花々だろ」


後からにゅっと現れたのは三年生の長門門司ながともんじ先輩。

通称もんじぃ。

「良いッスね!」

「もんじぃ先輩センス良いですね」

「もんじぃ君にしては悪くないかな?どうハナ?」


『私に聞かれても』

とは思ったが。

「Wild Flowers…」

呟いてみる。 

まぁ、悪くない。


門司もんじぃ先輩がきっかけ、というのは何だかシャクだが。


「うん、じゃぁソレで」

私は答えたのだった。

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