第四章 その9 機屋リューリ 『期待という名の呪い。』

夢を見ている。

いつもの夢だ。

私はデリバリーに入るが身体中に鎖が絡みついて動けない。

鎖は鉄ではなく冷たい氷で出来ている。


時間がない。

こうしている間にもタイマーの数字は刻一刻と減り続けていた。


投げなければ。


ストーンが重い。

パパが向こうのハウスで叫んでいる。


「…リ…リューリ…パパ…代わりに…お前…が…オ…ン…ピック…て、くれ」


パパの言葉で私に絡みつく鎖が増える。


投げなければ。 


皆、居なくなってしまう。


パパはシートを去っていく。


《…て…待って…》


野山乃花ハナもシートを去っていく。


それでも。

投げなければ。

私には、コレしかないのだから。

気が付けば私の周りは真っ暗で。


《…降りる…私…も…》


私も、シートから降りようとする。


しかしストーンは…



目を覚ますとまだ外は暗かった。

酷く疲れる夢。

夢から覚めても私の身体は、夢そのまま鎖に縛られているように、動かない。


寝なければ。

すぐに寝なければ。


寝なければ…。


《しくしくしく…》


夜中に起きるとロクな事はない。


《…私は…私は…ニホンジン…》


私の内の内には、いじめられて膝を抱える女の子が一人。

分かっている。

つまり私とはその程度なのだ。


そんな嫌な思い出ばかりが頭をよぎる。


考えてはダメだわ。


頭をシャットダウンして。


寝るのよ。


頭の中にフラッシュバックする光景。

パパが倒れる。


ダメ。

こうなると思考の迷宮から逃げられない。


不安。


重圧。


孤独。


動悸。


どれも私の胸を締め付け苦しめる。

後はもう同じ考え場所をぐるぐる回るだけ。


寝なければ…。


天井から暗闇がゆっくり落ちてくる。

それは薄いビニール袋に入った黒い液体のよう。

私の身体に合わせてゆっくり包み覆い被さっていく。


息が苦しい。


私はべったりと暗闇に覆われる。


そして息苦しさに負け、意識を手放す。


…それが私の睡眠。

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