第四章 その8 機屋リューリ 『譲れないモノ。』

いつの間にかチームが組まれていた事にため息をつく。

だが、私のスタンスは変わらない。 

誰がチームメイトか?

関係ない。

どのようにチームを作るか?

ではない。

チームメイトがいかに私に着いてくるか?だけなのだ。

私はこれ以上ここに居続ける理由も見つけられず、今度こそ立ち去る。 

「アンタねぇ、チームメイトが誰か気にならないワケ?」

「誰がチームメイトでも変わらないわ。結論私より下手でしょう?」

「くぅ〜。良い!?カーリングは協調性のスポーツなのよ!?アンタみたいに協調性の欠片もないヤツがなんでカーリング続けられるワケ!?ホント眼鏡のちっこいのがアンタに合わせてたのがよく分かるわ」

緑川紅宇みどりかわくうは捲し立てるが私はそもそも付き合うつもりがない。

それにしても見た目がこれだけ派手な彼女が調などと言うのもおかしなものだ。


もう相手にする気も起きなかったが、次に彼女が発した言葉は私の髪の毛を逆立たせるに充分だった。


「父親がちょっと有名だったからってチヤホヤされて、結局日本一にも、オリンピックにも行けなかったカーラーが…」


瞬間頭が沸騰する。

パァンと乾いた音が響く。

私は考えるより先に緑川紅宇みどりかわくうの頬を思い切り張っていた。

緑川紅宇はそのまま私を真っ直ぐ見据え。

お返しとばかりに私の頬を張り返す。

私は緑川紅宇がそうしたように、避けようともせず紅宇を睨んだまま叩かれる。


「パパを侮辱する事は許さないわ」

「父親を背負ってるのはアンタだけじゃない」


ほぼ同時に言葉を発する。


先に視線を外したのは緑川紅宇。


「アタシは…勝ちたいの。何をしてでも。父さんの為にも」


緑川紅宇は私に叩かれた頬ではなく、自分の肩を抱き、うつむき、呟いた。


ああ、きっと。

このも何かに縛られている。

その事は理解出来ても、私は緑川紅宇を理解したい訳ではない。


私は喋り過ぎた事を少し後悔しながら、今度こそその場を後にした。


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