第四章 その5 機屋リューリ 『失った日常と新しい日常。』

私立学園に入学して一ヶ月。

五月の下旬。


私は、苛ついていた。

周りに引っ張られそうで。

私のレベルが落ちそう。


私が求めるもの。

最低限私と同じレベルのチームメイト。

そして強敵。


入部の挨拶?

いらないわ。

自己紹介?

いらない。

まずは一通り出来ることを見るテスト…。

不要。

一年生でチーム編成?

正気?ばかじゃない?


ましてや私に未経験者のコーチを依頼してくるとか。

愚行愚の骨頂



「せめてアイスに乗れるようになってから来なさい」

…ほら。

さっきまで私のお尻だけ見てた男子とか。

何かに憧れて入って来た女子とか。

一瞬にして凍りついたわ。

「ははは、リューリクン。君が悪い訳じゃないよ。君に指導を頼む方が悪いのさ」

同じ学年の…。

たぶんナントカ。

…覚える気がないわ。

さり気なく私に指導力がないって言っているようなもの。


「僕の名前は座間夏彦だよー」

足早に立ち去ると後ろから名乗る声が聞こえた。

…覚える気はないけど。

「さすがの座間 夏彦ざまぁ なつひこね。気にしなくて良いのよ?あんなの」

「してないわ」

「…リューリ、相変わらず不機嫌ねー。あんた目当てで入部した男子もいるのよ?知ってる?ちょっとは笑ってあげたら?」


クリクリした大きな目が特徴の同じクラスの成美なるみ

なんだか知らないけどやたらと私に話し掛けてくる。

カーリングの腕前はまぁまぁ。

中学校でもやっていたとか。

「そう」

「え、それだけ?あんたなら“そんな理由でカーリングやって欲しくないわ”とか言うかと思った」

「始める動機なんてそんなモノじゃない?」

「そうかも。ね、ね、私達こんなに話したの初めてよ?凄い事じゃない?」

私はおしゃべりに付き合ってしまった事を後悔してため息をつく。


「リュリさん、溜息デスね」

すると今度はカタコトで話し掛けられる。

…厄日かしら。

こんなに話し掛けられるなんてね。


私と同じくらい背の高い、やや褐色がかった肌の女子。

目鼻立ちがはっきりしている。

青木 蘭あおき らんさんデスよ」

「ラン、普通自分の名前にさん付けはしないよ」 

すぐさま成美が訂正する。

確か名前は…。

黄氏青木ホァン・チ・アオキ・ラン。言えたよーブイブイ」

「ナルサンすごいデスね」

二人でハイタッチしている。


はぁ、パパの淹れてくれたコーヒーが飲みたい…。

私はまたため息をつく。

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