幕間 後編 機屋リューリ 『サヨナラのニイタカヤマノボレ』

私のママはフィンランドの出身。

パパは日本人。

ママは帰化してパパと結婚した。

だから、私は、誰が何と言おうとも日本人だわ。


私の髪はパパとママから両方少しずつもらった、黒色と金色の混ざったお気に入りの髪。

日の光に当たると金色になるし、日が陰れば黒くなる。

そしてママから貰った青い瞳の色は好きだったけど、目付きがキツい私は、皆から距離を取られることが多かった。

冷たい印象を与えてしまうのは分かっている。

でも私は私を変える気など、ないわ。


陰で何を言われても、カーリングの実力で黙らせれば良い。


そんな私と不思議と気が合った子。

野山乃花。

あの子がカーリングを始めたのは小学校四年生の頃だったわ。

あの子がカーリングを始めたきっかけ?

テレビで見た、スウェーデンの髭面の選手に惚れたらしいわ。

ホント、笑っちゃう。

最初は私の後ろをおどおどくっついてくるだけの、目立たない子だと思った。

私は両親が共にカーラーだったから、本当に小さな頃からカーリングをやっていた。

そんな私から見て乃花ハナはよちよち歩きのペンギンね。

目立つ事は好きではないけど、その芯はびっくりするくらい通っていて、曲がった事が嫌い、曲がったヤツも嫌い。

口数は多くないけど、少ない言葉に想いを乗せてはっきりしゃべる。

まぁ、頑固だわ。

そして正義感が強い。

けど、自分の正義を人には押し付けない。

そして、馬鹿みたいに責任感が強い。

そんなに背負ってるといつか潰れるか、ひねくれた大人になるわよ?


教科書よりも基本に忠実なフォームは、面白くないけど、堅実。

いつ離すリリースするのよっ…てやきもきする程じっくりとしたデリバリー。

リリースしたストーンをまるで振られた恋人の背中のよう未練がましく見つめ…アイスを読む。

あの判断力には何度か…いえ、助けられたわね。

でも名付けて“未練たらたらドロー”って何よ、ソレ?


自分で苦労した分、教え方が具体的で指導者には向いているわね。

私?

私は無理。

だって気付いたら上手くなっていたのだもの。

出来ない人が


高校生のコーチなんか引き受けてたけど、自分にメリットが無いのによくやるわ。

それでも。

下手でも和気あいあいと仲良くやっている姿。

…イラつくわ。

結局あなたの中でも私を一番にはしてくれないのよね。


乃花ハナの戦術は堅実な癖に、時として無謀なくらい大胆。

でもその一見無謀な戦術には、その場の勝ち負けだけではない、次の試合とか、将来とかそれ以上の何かを見据えてる。

視野が広いわ。

でも、ね。

失敗しても、失敗しても諦めない。

負けても、負けても諦めない。

そして不気味な程に実力をつけてきた。

そんなあなたが嫌いだわ。

だから、ね。

別々の高校になった事が嬉しくてたまらない。


「やっと敵になれるわね」

卒業式を終えた寒空の下。

私は乃花ハナを見つけて言い放つ。

今まで練習試合などでは対戦したけど。

今度は真っ向から潰してあげる。

「…味方以外は敵か?学校は違っても同じカーラー、それでいいじゃないか?」

「仲良しごっこするつもりはないわ。切磋琢磨も、ね。ただ、勝つのみ。サヨナラ。今度は敵としてアイスの上で会いましょう」

私を心配そうに見つめる瞳。

違う。

あなたなんかに同情される私では、ないわ。

あなたは連敗を重ねくすぶり、私は連勝を重ね輝くわ。

私は乃花ハナを睨みつけ、踵を返す。

それが、私の宣戦布告。


サヨナラ、イラつく子。

サヨナラ、私の…。


「そもそもお前、そんなんで誰が味方になるんだよ…」


乃花ハナの呟きは冷たい風に掻き消され、私には届かない。


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