第二章 その17 野山乃花 『敗北する権利があるのは挑戦した者だけだ。負けるのが嫌なら、挑むな。』

◇全日本高等学校カーリング選手権大会 関東中部エリアトライアル予選


試合が終わり、先輩達が相手チームと握手をする。

私は、今度は階段を降り、シートへ向かう。

伊勢原先輩は三脚を鞄にしまい、私に続く。 


次に試合をするチームが練習を行うから、いつまでもここにはいられない。

私は先輩達に目配せする。

私なりによくやった…という気持ちを込めた。

…何故か先輩達の顔が引きつったが。


私達はそれがまるで敗者の義務であるように、足早にホールを後にする。

そしてホールの出口で全員がアイスに向かって一礼をする。

観客と言っても選手の身内がちらほらいるだけだから、私達には拍手もない。


顔を上げると照明を乱反射するアイスのシート。


同じ氷上のスポーツでも、スケートのリンクはつるつるの表面に細かなキズがあり、それが太陽の光でリング状に浮かび上がる。

リングキズというヤツだ。

カーリングのアイス凸凹でこぼこしているので、反射は少ない。


試合が始まる前はあんなにも心が踊る光景と空気なのに。


負けた後はこんなにも冷たく、突き放されたように見えるのは、何故なんだろうな。

それは…私がひねくれているからだな。


二重の扉を出て、暖房の効いた廊下を歩く。

…いかん。

何をとぼとぼと歩いているのか。

“無い胸でも張れ”

私は自分に言い聞かせ、精一杯無い胸を張る。


ふ、と受付にいる女性と目が合う。

黒み掛かった金髪、長身、釣り上がった鋭い目つき。

リューリ。

本名機屋瑠璃はたやりゅーり

母親がフィンランド人、父親は日本人。 

つまりハーフ。

ちなみに両親ともにカーラー。

いわゆるサラブレッド。

まとめるとハーフでカーラーが完璧なサラブレッドな女。勝ち組。


私とは小学校からの腐れ縁。

私の友人。

…友人


昨年父親が倒れてから人が変わった…と思う。

少なくとも私は変わっていないから。

元々人付き合いが良い訳ではなかったが、本当に取っ付きにくくなった。


…思い返してみれば、私自身取っ付きにくい人間である事は間違いないから…お互い様か?


そのリューリが私達の横を通り過ぎる。


「無様ね」


ボソリと通り過ぎながらリューリが呟く。

私は一旦通り過ぎてから立ち止まり。

振り返る。

リューリもこちらを振り返り、冷ややかに見つめている。


「私が無様なのは間違いないな。そこに異論は、ない。だが」

私は眼鏡を光らせる。

「精一杯試合をした選手を愚弄する事は許さない。彼等の敗北の責任は私にあるのだから。私の…」


そこで私はその先を言うか一瞬迷う。

 

「私の機屋リューリは、敗者を馬鹿にする人間では…」

リューリの瞳がより一層細くなる。

羨望…嫉妬?

お前さんみたいな人間が、どうして私のような無様な人間をうらやむ?

「そんな人間では、なかったよ」

そして何故お前さんは、人を傷付けながら、自分自身も傷付くのか。

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