第二章 その18 長門門司 『ノヤマノハナが良いコーチだったのかは分からない。だが、良いコーチとは最低限ノヤマノハナのようにあるべきだと俺は知った。』

俺達はカーリング場の二階にあるラウンジに着くと誰ともなく椅子に腰掛ける。

…誰も何も話さないな。

俺達は一言もしゃべる事もなく、ただ、野山乃花の言葉を待った。


最初に言葉を発してしまえば、すなわち、それがこの試合の評価となる。

そんな気がしていた。

軽い言葉を発してはならない。


俺達はよくやったのか?

情けなかったのか?

俺達には分からない。

俺達はどのように戦い、負けたのか。

例えそれが罵倒であれ、野山乃花にきちんと評価をして欲しかった。


ガタリ、と椅子が音を立てる程勢いよく、野山乃花は立ち上がる。

指先までしっかり伸ばしたまま、頭を下げる。

「今日は精一杯カーリングして下さり、ありがとうございました。見事な試合でした。そして、申し訳なくありました。今日の敗北は先輩達の力を出し切れなかった私に、全ての責任があります」


一瞬、全員が固まる。


俺の野山乃花のイメージと言えば。

気が強くて鼻っ柱が強いが、プライドが高い。

背も小さいし胸はに小さいが、小生意気で生意気で態度が不遜。

可愛げがなく素直でもないが、無口で言葉足らず。

人に対して厳しく、自分に対してはもっと厳しい。

そして恐らく腐女子。


だが。

この責任感か。

これが、コイツの「当たり前」か。


人間というのは負けた時にこそ、その真価が問われるのかもしれない。


この、歳下の、野山乃花はその小さな身体でどれ程の理不尽敗 北に立ち向かってきたのか。


気を強く保たねば、乗り越えられなかったであろう、敗北。

生意気で不遜な態度でなければ目標とすることさえ嘲笑される、勝利。

口を開けばあふれてしまうであろう、愚痴。

自分に対して厳しくあらねば覆せない程の、環境。


…少しは言い訳するか、俺達のにしろよ。

お前、いまからそんなんで、一体どんな大人になるつもりだよ。

俺達が「たわけ」ならお前は「バカヤロー」か。

今更ながら、こんな小さな女の子に俺達を背負わせちまった自分が情けない。


これが「負ける」という事か。

本当の敗北は、チームもコーチも一眼となって目指した結果の敗北は。

自分達よりも、チームメイト、コーチに対して申し訳なくなるものか。


野山乃花に


その事を何より俺は悔いた。








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