第二章 その14 長門門司 『可愛げのないハナにも、毒がある。』

◇十二月末 全日本高等学校カーリング選手権大会 関東中部エリアトライアル 予選


五分間の休憩ハーフタイムが終わり、第四エンド。

野山乃花が言ったように、このまま順調に得点を重ねていくと第六エンド最終エンドで相手が後攻。

圧倒的に不利な状況となる。

ならばこの第四エンド、なんとしても相手を一点に抑えたいところだ。

第三エンドではこちらが二点得点している。

相手チームが立ち直っていない事を願う…のはカーラーとしては失格か。


『たわけが。他人の不幸を願う暇があったら勝つ事に頭を働かせろ。勝ち筋を見出だせ。足掻いて足掻いて勝機を掴め』


何故か頭の中に野山乃花の声が響く。

もちろんあの胸の小さなコーチは五十メートル向こうのコーチ席だ。

声など聞こえるはずもないし、断じてフォー◯でもない。

…でも。

俺は確信する。

アイツならきっとそう言うだろう、と。


…俺も毒されてきたか。

ふっと自嘲気味に笑う。

「どうしたの?もんじぃ。笑ってる」


玲二が、コイツも笑いながら聞いてくる。

アイスの反射が色白な肌をより一層、白く際立たせる。


「いや、野山乃花の声が聞こえた気がしてな」

「もんじぃもある?実は僕もたまにあるよ」

「俺もだ」

「うん、たまに俺もある」

…驚いた。

四人が四人同じ事を言う。


「全員毒されてるな」

「ノヤマノハナと言うが…。そのハナはどうやらとびきりの毒を持ってるらしいな」

「違いない。私の毒は生半可ではないぞ。むふ~ってか」

どっと全員が笑う。


このエンド何としても相手を一点で抑えたい、場合によってはスチールしたい俺達。

スキップ最上の指示した俺の一投目はハウス内。

ハウス内にストーンを入れても相手チームは構ってこないと踏んだのだろう。


『このシートは試合が進むと滑りやすくなる』


野山乃花の言葉を思い出し、先ほどまでより少し遅いウェイトでストーンをリリース。

味方二人のスイープで何とかハウス内に中央の線ティーライン前に置けた。


何気ないドローショットだが本当に…ヒヤヒヤする。

「ナイス。もんじぃ」

玲二とグータッチ。


相手チームはコーナーガードを確実に置いてくる。

その後は俺と玲二でダブルガードを置く。

守りは完璧。


しかし。

相手チーム二人目セカンドの二投目。

手前のガードを飛ばし、さらにハウス内の俺達のストーンもガードもダブルテイクアウト。


…圧倒的だった。

休憩ハーフタイムで体勢をきっちり立て直している。

結局このエンド、俺達は二点を失う。

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