第二章 その12 長門門司 『理由?野山乃花がこっち見てるから。それだけだ。』
◇十二月末 全国高等学校カーリング選手権大会 関東中部エリアトライアル
第一エンド。
完全に相手が二点を取るペースとなる。
俺達は全員、申し合わせたようにコーチ席を見た。
いつも、俺達のチームにコーチなんていない。
自分達でああだ、こうだと話し合い、最終的には
必敗パターンだ。
だが、今日は。
俺達にはコーチがいる。
たった一ヶ月だが師と仰いだコーチが。
胸も無ければ身長もないコーチだが。
頼れるコーチが。
その野山乃花コーチはコーチ席で…。
…物凄い形相で腕を組んで親指の爪を
その眼鏡は鼻息で真っ白に曇っている。
「むふ~っ、むふ~っ」
という息遣いがこちらまで聞こえるようだった。
…四人とも考えた事は同じだろう。
「「「「とりあえず、マズい」」」」
「切り換えよう!」
「よし!二点で抑えたと思えば良い」
「まだ第一エンドだぜ」
そしてまたチラリとコーチ席を見る。
野山乃花コーチはコーチ席で…。
…相変わらず腕を組んだまま、曇った眼鏡を光らせ(?)なぜか笑っていた。
四人とも考えた事は同じだろう。
「「「「怖い」」」」
だが、切り換えが出来たのは確かだった。
「ちょっとは見せ場作らないと、
「噂によると、
「俺はカーラーになるためにシベリアまで行って氷河をストーンで砕いたらしい」
「俺はストーンを投げて海を割ったらしい」
「世界中の皆から“Yes”をちょっとずつ集めて“Yes玉”を放つらしい」
「野山コーチのスイープするブラシの先端は、音速を超えるらしい」
「その右腕には
「ストーンを投げずに、
「野山コーチがストーンを投げると、相手のストーンは当たる前に道を譲るらしい」
「相手チームのストーンを全てテイクアウトするのは当たり前で、何故か隣のシートのストーンまでテイクアウトしてしまったらしい」
「一つのエンドで何故か九点取った事があるらしい(ストーンが八個しかないのでカーリングでは、最大でも一エンドに八点しか取れない)」
…。
「「「「んなバカな」」」」
四人が一斉に笑い出す。
「しかし、どえらい師匠を持った」
「違いない」
「さて」
「反撃開始かな?」
「そこは断言しようね、もんじぃ」
第二エンド。
相手チームがナンバー
「無難に一点を狙うか?」
スキップの
「いや、ダブルテイクアウトでブランクエンドを狙ってみないか」
俺の提案に全員が驚いたようだった。
…いつも提案なんかしてなかったからな。
「…確かに、シビアだが狙えるか」
「
言いながら俺も自信がなくなってくる。
「そこは言い切ろう、もんじぃ」
すかさず玲二のツッコミ。
「最悪ナンバー
作戦が決まり、最上がデリバリーする。
「もんじぃ、最初からYesだ!」
「音速は無理だがッッ!」
「腕が千切れるまでやるよ!?」
玲二とスイープを行う。
「「「「当たって、左ぃ!!」」」」
全員が叫ぶ。
…ナンバー
「「「「そのまま外!!」」」」
見事なブランクエンドと、皆との極上のハイタッチ。
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