第二章 その11 野山乃花 『野山乃花、連敗記録更新中。』
私がコーチ席に着くとそこにはまた伊勢原先輩がいた。
「先輩も見学ですか?」
「…アイツらがどんな試合するか、見届けたくてね」
先輩チームの先攻で試合が始まる。
相手チームは地元
…はっきり言って敵う相手じゃない。
奇跡も挟む余地がない。
第一エンド。
長門先輩の一投目。
もう、あのお尻が浮き上がったヘンテコなフォームはしていない。
フォームだけ見れば、いっぱしのアマチュア初心者へっぽこカーラーだ。
『ストーンに体重乗せたらダメですよ』
届くわけがないのに、心の中で長門先輩に語りかける。
『
練習中幾度も先輩に繰り返し言った言葉だ。
『おう、今手で押したな?あれほど手で投げるな言うでしょうが!』
…だんだん私の中で温度が上昇していく。
『コラ、ウェイトジャッジ遅い!スキップ仕事しろ!?』
「…はなっち、心配?」
横から伊勢原先輩の声。
「…心配?してませんよ」
「いや、あのね。こっちも揺れるくらいの貧乏揺すりされたらね…」
気がつけば私は腕組みして親指の爪を噛んだまま、猛烈な貧乏揺すりをしていた。
「しかも器用に両足で交互に貧乏揺すりするとか、もはやミュージシャン?」
私はマフラーに顔を埋めて
「むふ~っ」
と息を吐き出す。
瞬間自分の吐息で世界が白濁する。
「眼鏡がッッ!ああ、眼鏡がぁぁ~」
「ム◯カ大佐?」
冷静な伊勢原先輩のツッコミ。
とりあえず眼鏡をきゅっきゅっと拭く。
「自分で試合した方が楽かな?」
伊勢原先輩がそばかすの浮かんだ顔をにまにまさせながら覗き込む。
「…そんなのは…」
言い淀む、私。
「…そうですね」
落ち着いてカーリングが行われているシートを見る。
「…見ているだけと言うのは、なんとも歯痒いというか」
第一エンドが終わり、二点先制されている。
「…お前らもう少しまともなカーリングしてみるが良い、とは言いたくなりますが」
負けていても、先輩達の表情は明るい。
「それでも」
圧倒的な力量差でも、諦めてはいない。
「もんじぃ!今の良いガードだった!」
「山城!ナイステイクだ!」
「ウェイトどうた?」
「この先で落ちるだろう。イエスだ!」
「ストーン半分ナローだったな!次で決めれば良いさ!」
「まだ、諦めるなよ?野山コーチが見てるんだ」
着実に敗北への道を進んでいく先輩達。
チームの敗北は
…それでも。
「そんなに、悪い気分じゃありません」
そう言った私も、きっと笑っている。
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