第二章 その10 野山乃花 『祈ったら負けだ。氷の神様はそりゃあもう冷たい。しかし、諦めるなよ。そこにストーンある限り。』

◇十二月下旬 カーリングホール

関東中部エリアトライアル初日


十二月中旬は国際大会が行われ、アイスメイク等でカーリングホールは閉鎖となる。

そのため、一般のカーラーは練習が出来ない。


国際大会が終わると年末の関東中部エリアトライアルが行われる。


あっという間に一ヶ月が経過してしまった。

実質練習出来たのは二週間程度だった。

何が出来たかと言われれば、きっと何も出来ていない。

基本的なフォームを叩き込んでミニゲームで戦術を勉強して。

カーリングの実力は練習の質と量で決まる。

だからこの二週間練習したところで何が変わる訳でもない。

分かっては、いる。

それでも。

勝った事のない先輩達がせめて一勝でも出来ないかと祈りたくなる。


…違うな。


祈った段階ですでに負けているのだ。

本気でやっているカーラーはストーンチェックまで含めて、きっちりこなしてから試合に挑む。

祈りが入る余地などないのだ。


結局のところ、コーチ何て言うのは最後には何も出来ない。

選手を信じて送り出すだけだ。

たったの二週間ではそんな絆すら薄っぺらいものだが。

『自分を信じて』

『練習してきた事を思い出して』

『頑張れ』

…そんな薄っぺらい言葉掛ける意味もない。

だから先輩達にはこう言って送り出した。

「フォー◯が共にあらんことを」

……うん。

四人の頭の上に『???』マークが浮かんでいるのが見えたわ。

「間違いです。諦めないで下さい。そこにストーンがある限り」

私は言い直す。

四人とも首肯く。


私はコーチ席へと上がっていく。

すると。

「野山コーチ!」

後ろから呼び止められる。

振り返ると。

「「「「◯ォースが共にあらんことを」」」」

先輩達が声を揃えた。

一瞬して。

私達五人はこらえきれず一斉に笑い合った。

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