第二章 その4 伊勢原真紀 『人の視覚は見えていても全てが認知出来る訳ではない。でも私のシャッターは無情にもその一瞬を正確に切り取る。』

◇十一月下旬 伊勢原真紀自室


その日、私が見たカーリングは一方的な試合展開だった。


この間初めてカーリングの練習を見た私も、ネットでカーリングルールは少し理解していた。


間違いなく、どのサイトにも載っていた言葉がある。


『カーリングは後攻が有利』


しかし目の前の中学三年生の少女は、一人で高校生四人を相手に、(しかも先攻で得点して)勝ってしまった。

高校生…山城玲二やましろれいじやもんじぃこと、長門門司ながともんじ、私立学園の二人(名前知らないもん)が下手だとは思った。

でも、それにしてもね?

四人でやるスポーツを一人で相手するって。

サッカーに例えると十一人チーム相手に二~三人で勝つようなものか。


結局、あの野山乃花って子はコーチを引き受ける事になったみたい。

玲二は十二月下旬に大会があるって言っていた。

あと一ヶ月。

それまでにあのチームが立て直せるのかしら?

ひょっとして、私はとても良いタイミングで立ち会えたのかもしれない。

あのチームが一ヶ月後に大化けして…。

なんてね。

それはないわ。

他に練習している人達を見たけれど。

ストップウォッチ持って時間計ったり、あの漬け物石ストーン(で合っていたかな?)をギリギリ通す練習したり。

練習の質がそもそも違っていた、と思う。


少し暑くなってきたかな。

私は反射式の石油ストーブの火を弱くする。

ストーブの上ではやかんがぽっぽっと柔らかな煙を吐き出す。

反射式のストーブは温風が出る石油ストーブより部屋が温まるのは遅いが、乾燥しにくいし、なにより火の揺らめきが好きだった。


さて、と。

私は父が現像したフィルムを今日もパソコンに取り込んでいく。


ふふっ、と思わず笑ってしまう。

山城玲二と長門門司もんじぃがじゃれあっている写真。童顔の玲二が仏頂面でおっさん臭いもんじぃと準備体操でプロレス技を掛け合ってる。

なにやってんだ、コイツら。

でも、羨ましいくらい仲良いわね。


しばらくカチカチとマウスをクリックする音と、石油ストーブの炎が揺らめく音、やかんの音が部屋に響く。

ゆら、ゆら…。

温かい、オレンジと蒼い炎の揺らめき。

かすかな灯油の香り。

かたかた、と風が結露した窓を揺らす。

窓の外は寒風吹き荒ぶ氷点下の世界。

でも寒い冬だからこそ、暖房の温かさが見に染みる。


ゆら、ゆら…。

かたかた…。


モニターの中で山城玲二が笑っている。

ゆら、ゆら。

モニターの中で山城玲二が天を仰いあおいでいる。

かたかた…。

モニターの中で山城玲二が肩を落としている。

ゆら、ゆら…。

モニターの中で、山城玲二が。

かたかた…。

玲二が。


…ハッ!?

いやいやいや。

私は顔をぶんぶんと振る。

山城玲二

フィルムもったいないわ。

次からは意識しよう。


しかし、私はふと気になって玲二の写真を見る。

不思議な程に。

不自然な程に。

なんで、いつも、もんじぃが一緒に映っているの??

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