第二章 その2 野山乃花『カーリングのルール回である。ルールを知りたければしっかり読むが良い。難しければ読み飛ばしても構わないぞ』
私の提案で私一人対高校生四人の試合が始まった。
公立高校の部長は静観する様子。
ならば好き勝手やらせてもらう。
言うまでも無いことだけど、カーリングは本来チーム戦では四対四、男女がペアのミックスダブルスでは二対二で行う。
一対四なんて試合は論外も論外。
相手は一人がデリバリーし、他の二人がスイープをする。
しかし、私は自分でデリバリーした上で自分でスイープする。
スイープ力に差が出るし、当然疲労が全く異なる。
それでも。
負ける気はしない。
いや、ただ勝つだけではない。
完膚なきまでに骨の髄までしゃぶり尽くしてBL素材にしてやる…じゃなかった。
完膚なきまでに叩きのめす。
この試合、一点だってやるつもりはない。
私の先攻。
先ほどウォーミングアップで数回デリバリーを行った。
それで今日の
元より状態の良いとは言えない
試合をしながら、それに合わせるしかない。
私はまずは様子を見るために中心にガードを置く。
ハウスと呼ばれる円付近にストーンが止まる。
まぁヨシとする。
相手チームの
反対側のハウスで相手チームの
そしてストーンの曲がりを考慮した上で、
一般的にカーリングではストーンを停めたい位置に真っ直ぐデリバリーする事はほとんど、ない。
カーリングで用いる
一見平らに見える
そのため敢えてストーンに回転(右回りや左回り)を掛ける。
例えばサッカー選手がゴールの中心にボールを蹴り込みたいとする。
もちろん真っ直ぐ狙ってはキーパーに止められてしまうから、回転を掛ける場合。
選手から向かってゴール右側に狙いを定め、ボールの回転は左回りとする。
すると蹴り出されたボールはゴール右側に向かうが、やがて回転により左に曲がっていく。
同じ事をカーリングでも行っている。
上記の例をカーリングで行うと
デリバリーされたストーンは滑走する間に左側に曲がって行き、ハウスの中心まで曲がっていくという寸法だ。
カーリングの語源とはゆっくり「カール」させる事から来ていると言われている。
相手スキップのブラシはハウス中央に置かれているから、
長門先輩はお尻が浮き上がった、それはそれは不安定な状態で
しかし、リリースする方向がかなりズレていたのだろう。
ストーンは中心付近、ハウス手前でガードとなる。
私がさっき投げたストーンと長門先輩の一投目は縦に並んでいる。
そして私のストーンは彼らのストーンよりハウスに近い。
私の二投目はガードストーンの
ある程度の実力があるカーラー同志の試合の場合、ガードストーンの無い、ハウス内に置かれたストーンはただの的だ。
いや、ただの的ならまだ良いが、ハウス内のストーンを弾いて軌道を変えたり、ストーンを当てる事でその場に留めたりと相手に利用されてしまう事が多い。
その為、ハウス内のストーンを守るため、ハウス手前に置かれたストーンをガードストーンと言う。
ハウスの端っこ側ならコーナーガード、中央寄りならセンターガードと呼ばれる。
「ガード」と言う言葉から、守りに徹しているように聞こえるが、ガードストーンは決して守りではない。
ガードストーンの無いハウス内のストーンは相手が余程のミスをしない限り、得点になり得ない。
得点を取りたければガードストーンを置かねばならず、つまりガードストーンとは攻めの一手なのだ。
得点を取りたければ、まずガードストーンを置く。
そして後攻チームはコーナーガードを置き、ハウス中央では戦わない。
これは将棋に序盤の定石があるように、カーリングの定石とも言える。
この試合では相手のミスもあり、ハウスの中央付近にストーンが溜まっている。
これは先攻の私の思い通りで、後攻の相手チームにとっては非常に厄介な展開だ。
カーリングの基本的な得点方法は以下の通り。
・得点は
・その為各エンドは必ず
・ハウスの中にお互いのチームのストーンが無い場合は
・一点でも得点したチームは次のエンドで先攻となる。
・上記の理由により最後の一投を持っている後攻が圧倒的に有利である。
これを踏まえると次のような戦術が基本となる。
・後攻が一点のみしか取れない場合、それは先攻の作戦勝ちであると言える。※先攻としては、最少失点で次のエンドは有利な後攻となる事が出来る。
・その為後攻は二点もしくは複数得点を狙う。
・後攻で一点しか取れない展開ならば、そのエンドをお互い
・後攻は
つまり今、ハウス中央でストーンが溜まっている展開は先攻の私に有利なのだ。
長門先輩の二投目もやや中央寄りのガードストーンとなる。
…言わせてもらうと。
…盤面が美しくない。
私はナンバーツー、ナンバースリーと着実にハウス内に溜めていく。
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