連座で抹殺を回避するために同盟を組みます!

 目が合った女性を想像妊娠させてしまうと名高いカイルの目の下の黒子に目が行った。令嬢たちが気絶すると言われる色気が駄々洩れの深い蒼色の瞳で私を見つめていた。

 おっと・・。危ない!!

危うく魂が奪われそうになってしまった私は、咄嗟にエリオスに視線を戻した。


「で、でもっ・・。このような事が私達以外の方々に知られたら、あっという間に王宮審議会にかけられてしまうでしょう!?社会的抹殺って、どの程度の制裁なんでしょうか?」


エリオスのお父様は法総大臣を務め、その優秀さを買われて宰相になっている。彼の言葉には力強い説得力がある。


「爵位と領地ははく奪されてしまうでしょうね。両家とも、王家とは創国以来、濃い間柄で互いに姻戚関係も結んでおりました。数多の貴族の中でも、特に王からの信頼の厚い名家です。

 その名家のご令嬢が、王太子殿下であるカイル様への背徳行為を行い、その相手が臣下であり、騎士団所属の侯爵令息であるノア様となると・・。この国始まって以来の一代スキャンダルとなりますね・・。不敬極まりない行いですから」


「れ、連座ですか!?家がなくなってしまうんですか?

この王国には、時代錯誤の連座制度がまだ残っているんですね。

どうして、ド阿保の婚約者と、お姉さまの浅ましい肉欲のために私や家族まで社会的制裁を受けなければならないのよ!?」


頭に浮かんでくるのは優しいお父様と、柔らかい笑顔で癒してくれる美しいお母さま・・。若干シスコン拗らせ気味の可愛い弟のオーブリーの腹黒い笑顔が脳裏を過った。


気落ちした様子の私を見たエリオスは、少し考え込んでから言葉を発した。


「一つだけ、手がありますよ。

ただし、前例が少ないので、少々困難な道のりにはなるかと思いますが・・。

婚約者のお披露目と合わせてデビュタントが紹介される王侯貴族の夜会「イシーラの夜」で、お二人の婚約を同時に破棄するのです」


「なるほど・・。「イシーラの夜」がまだだったか。・・確かに、可能かもしれないな。救いがあって良かったが、三か月後だぞ?」


カイルは、納得としたようにエリオスを見上げた。

その横で唸っている私を気にせずに二人は決意を固めた表情を浮かべていた。


「あー・・。えっと、何ですっけ?イシーラの夜って?」。


「ラグラバルトの王侯貴族は、「イムディーナの誓い」に則り、婚約者を10歳までに決定しなければいけない法があるだろう。

その誓いは法律的には絶対だが、・・唯一、破棄出来る機会がある」


「結婚前に、たった1度だけ・。婚約意思の確認の儀が執り行われるんです。」


「・・・なるほど。それが、「イムディーナの誓い」なんですか??」


「はい・・。18歳の成人を過ぎた男女が、大晦日の夜に王宮に集い行われる舞踏会「イシーラの夜」で結婚の誓いを交わす婚約者達を前に、女神エメルディナに最後の信託を窺い、互いの同意を確認する事が出来るのです。これは形式的な行事で、婚約破棄の事例は少ないですが・・。もし、婚約に不安がある場合は、そこで婚約の是非を確認する最後の機会となりますね」


「そのイシーラの夜で婚約を破棄すれば、ノアと結婚しなくていいんですね!?」


「そうだ、私もそこでアデレイドとの婚約を破棄することが出来る。ノアとの結婚は君の意思ではないのか?」


「・・まっさかぁ!最初から婚約なんて、望んでなんかいませんよ!!

しかも、浮気男との結婚なんか生涯二度とごめんです。ノアとの婚約破棄が出来るなら全力で「イシーラの夜」にて、婚約破棄を断固遂行いたします!!」


「そうか・・。目的が同じならば、互いの婚約破棄を目指そうじゃないか。

ただし、手順や手回しは必要だ。・・そうだ、エメリアは婚約を破棄した後、他に結ばれたい男でもいるのか?」


こちらを窺うように、カイルは上目遣いで私を見つめた。


「いいえ、まさか・・。そんな男性は居りませんし、そんな予定もないです!!」


「ふーん・・。そうなのか。」


甘い微笑みを向けられ、ドキッとした。

心臓に悪いカイルの無駄な色気に少しイラッとした。


「・・・私は、仕事に生きたいと重々お父様には伝えてきました。

カイル様や、エリオス様と考えている貴族への税金の導入や、国家予算の試算を更に進めて行きたいんです!!福祉、医療費の予算が足りていませんし・・。それらの予算のために国庫から不要な出費を減らし、王国の国民生活がより良い生活を維持できるようになり、国民一人の幸福度が更に高くなっていくことが望みなんです!」


エメラルド色の瞳を細めて、興味津々の笑顔を二人に向けるとその言葉に驚いたように、カイルとエリオスは息を飲んで私を見つめた。


そうよ。二度と浮気男との、人生の無駄でしかなかった結婚生活を一秒たりとも送りたくない・・!!


あんな地獄のような人生の二度繰り返すなんてありえない。

是非とも、今世では辞退させていただきたい!!


「貴族令嬢として結婚は大切なことだとは理解しておりますが・・。

それよりも、国家財政をより良くすることが私の願いです!!

国民の心と、幸せを守りたいんです!!」


カイルとエリオスが味方なら、何となく婚約破棄が実現出来そうだし、ここはやっと巡ってきた絶好の婚約を破断にする機会ラストチャンスですもの!!

頑張るしかないっ!!


未だに甘い喘ぎ声で睦み合っている姉と、自らの婚約者を背にしたエメリアは嬉しそうに立ち上がってガツツポーズを掲げようとした。


横で焦っているカイルは、エメリアの肩を押さえ、手を握ってシーッと唇に人差し指を当てた。


ビックリした私は顔を真っ赤にしたまま口をパクパク開けていた。


「リア、興奮しすぎだ。見つかったら、この計画自体が台無しだぞ?」


目の前に眩い美形のカイルのドアップ・・。

その甘い微笑みに、何故か私の頭では黄色信号が点滅していた!!?


「・・・はいはい、分かりましたからっ。や、やめてくださいよ、無駄に色気を振りまかないで下さい。身体に非常に害です、害悪の塊です!!」


そう・・。男性不振の塊である私にとって、時々距離感のなくなるカイルは害悪でしかなかった。

面白そうに傍に寄って来ては、耳元でバリトンボイスを奏でる事もあり、私のストレスの種でもある。一瞬で距離を空けた私を、カイルが鼻で笑った。


「ふーん。色気ねぇ・・。エメリアに僕の色気が有効なのか試してみてもいい?」


「暇人なんですか!?駄目に決まってるでしょう・・。

イシーラの夜まで、三ヵ月のリミット切ってるんですよ?私で遊んでいる暇はないんですからね。ほら、さっさと婚約破棄の策を練りますよ」


「はいはい・・。執務室に戻ろうか?可愛いな、リアの真っ赤な頬は美味しそうな林檎みたいだね?」


「はっ、美味しくないですよ。

こっ恥ずかしくなるんで、歯の浮く気障な台詞の押収はお辞め下さいっ!!」


耳まで真っ赤になった私を見て、楽しそうにカイルはクスクス笑っていた。

揶揄うカイルに、プイッとそっぽを向いた。


ゆっくりと温室を脱出した私達は元居た執務室に向けて美しい王宮の庭園を歩いていく。カイルと並び歩いている私の後ろからエリオスが付き従っていた。


眩しい笑顔でエメリアを振り返ったカイルを、柔らかい瞳を細めたエリオスは口角を上げて苦く笑った。


「自覚がないようですが・・。国母の鏡のような発言ですね。

なるほど・・。これほどまでに執着する意味が少しだけ解ったような気がします」

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