第3話
「そういえば、職業っていうのはどうやって取得すればいいんだ?」
先程の話から察するに、この世界では職業を選択することで戦う為の力が得られると思われる。
俺の問いに対して向日葵は口を開く。
「13柱の神の中から力を借りたい神を選び、
「プレイヤー……?」
っていうか13人の神の中から選ばないといけないのか。
結構多いな。
「戦士系であれば『オーディン』か『トール』が人気だね。オーディンは槍系のスキルや風の魔術系スキルが貰えて、トールは鈍器系のスキルや筋力がパワーアップしたりする」
ふむふむ、オーディンが槍と魔術でトールが鈍器と筋力強化ね。
今更だけど神なのに様付けで呼ばなくて大丈夫なのだろうか。
「剣士系は沢山いて、美しい剣技が魅力の『フレイ』、片手で剣を使うことに特化した『テュール』、力を貯めて解放することで強力な一撃を放つ『ヴィーザル』、五感を強化することができる『ヘイムダル』の4柱だね」
剣の技術を高められるフレイ、盾を持ったり双剣を使ったりできそうなテュール、浪漫溢れるヴィーザル、割と使い勝手が良さそうなヘイムダルか。
「格闘系だと、ヒデオが選んだ光の神『バルドル』は聖職者の力が得られ、手を使った格闘術が得意になる。海の神『ニョルズ』を選ぶと足技が主体の格闘術と水の魔術が得られるんだ」
沢山居て憶えるのが大変だ。
えっと、セイガが選んだバルドルが聖職者と拳闘、水属性魔術と足技のニョルズ、っと。
「魔術師系だと既に説明したけどオーディンが風属性の魔術でニョルズが水属性魔術でしょ?あとは邪神である『ロキ』を選ぶと炎の魔術と鍛治スキルが使えるようになるよ。大地の女神『ゲフィオン』は地属性の魔術が得られる他に動物と意思疎通ができるようになるんだ」
オーディンが風属性でニョルズが水属性、そんでロキが炎属性でゲフィオンが地属性。
ロキの鍛治スキルは長い目で見ると有用かもしれない。
「愛と美の女神『フレイヤ』は精神干渉系の魔術が使えるようになるよ。あとは時空間系魔術が使えるようになる『イズン』、弓と狩りの女神『スカジ』を選ぶと狩人としての力が得られてサバイバル能力が高まるよ」
なんだかヤバそうな雰囲気が漂うフレイヤ、時間と空間を司るイズン、弓とサバイバル能力のスカジ。
参ったな、沢山居すぎて選べないぞ……。
「ええっと、セイガが『バルドル』を選んだとして、他の二人は誰を選んだんだ?」
「丹波君が選んだのは『ヘイムダル』さ。感覚器官の強化によりダンジョン内での斥候を担当してもらっている」
丹波鈴は五感を鋭く研ぎ澄ますというヘイムダルか。
職業は確か剣士だったか。
「それで、向日さんは?」
「ガングレリ」
え、誰?
俺が混乱を極めていると、向日葵が吹き出しながら謝ってきた。
「ふふ、ごめんよ。『ガングレリ』はオーディンの別の姿と言われている神で、短剣を扱うことを得意とする『道化師』という職業を取得できるんだ。ちょっと特殊な条件を満たさないといけないから、残念だけど今の君には選べない神だけどね」
そういうことか。
オーディンという神には派生した姿があるということなのだろう。
「うーん、マジで選択肢が多すぎて選べないな。お勧めを聞いても良いか?」
「大体は直感に従って良いと思うけれど、強いて言うのなら僕らのパーティは火力が不足気味でね。攻撃力の高い『トール』か、渾身の一撃を放つ『ヴィーザル』がおすすめかな」
直感か……。
うーん。
「なんとなくだけど、トール、かな?」
「よし、それにしよう。神殿へGOだ」
ストレンジストレングス(長いから今度からスト2と呼ぼう)のメンバーと共に、俺が最初に目覚めた神殿へと向かう。
道すがら街並みを見る限り、殆どが木造の建物のようだ。
道路にゴミや排泄物が捨てられているなんてことは無く、衛生観念もきちんとしているらしい。
歩いている内に神殿と呼ばれる厳つい建物が見えてきた。
神殿とは言っても華美なものではなく、質実剛健な石造りの建物だ。
「町は木造の建物ばかりだったが、神殿だけは石材なのか」
「うん、地震がよくあるからね。神殿は神の不思議パワーで守られているから平気らしい」
この世界、定期的に地震が起こるのか。
というか先刻から向日葵しか喋ってないな。
セイガは鏡を見たり髪を直したりと忙しそうだし、丹波鈴はそもそも会話する気がないのだろう。
石造りの神殿の中は外から見るよりも広く感じられた。
内部には十二の大きな神像が円形に置かれており、神像の足元から見上げると後頭部がうなじにくっ付いてしまいそうな程に高い。
とても圧迫感がある。
立ち並ぶ神像の中心にて、異国の巫女といった感じのお姉さんが祈りを捧げていた。
向日葵は紙に包まれた硬貨らしき物を懐から取り出すと、小さな受け皿の上にちょこんと乗せる。
「失礼。こちらは御布施です」
「確かに頂戴致しました」
あっ、料金掛かる系のやつだったの!?
俺は少し慌てながら、ひそひそ声で話しかける。
「お金が必要だったのか……?すまない……」
「必ずしも必要なものでもないから気にしないでいい。ただ、渡しておいた方が神からの心証も良くなるし、巫女さんもやる気が出るだろう?」
神という存在は案外現金な人たちなのかもしれない。
「して、今日は新たなる祈り手をお連れになったということで相違はございませんか」
巫女さんの瞳は深みさえ感じるほどに黒く、まるで底の見えない深海か宇宙でも覗いているかのようだ。
どこか捉えどころが無く、それゆえ神秘的な雰囲気も感じさせる不思議な人物であった。
「うん、お願いするよ。この子は『トール』の祈り手になりたいそうだよ」
「承りました」
巫女のお姉さんは金槌を象ったアミュレットを握り締め、天を仰いで奏上を始める。
「『──天上に座す神々よ。身分の高下を問わず、
雰囲気に呑まれる。
その詠唱はどうやったのかは分からないが、一瞬声が重なって聴こえたような……?
場が目に見えない重圧感で満ちる。
人間を超越した存在感の片鱗、これが神、トール……っ。
「『……え、今は無理?いやいや、こっちはお布施を頂いている以上、おいそれと突き返す訳にはいかないんですよ。この間の酒代立て替えてあげたの覚えてます?』」
……なんか流れが怪しいぞ。
「『契約を反故にするのはトールの特権?は?私から踏み倒そうってか?
巫女さんはチンピラの如き口調でトールを脅し付けているようだ。
大丈夫なのか、これ。
「ふぅ、トール様のご準備が出来たようです。さあ、こちらに来てください」
全然準備出来てなさそうだったが良いのだろうか。
巫女の姉御に言われるがまま台座に登り、手を繋ぐ。
「目を閉じて心の中に神を受け入れる準備をしてください。瞑想するようなイメージですね」
言われるがままに目を閉じた途端、体の感覚が徐々に変質していくのを感じた。
心の穴が満たさせれいくような、そんな感──覚が────……。
はっと目を覚ます。
授業中にうとうと微睡んでいた時のように、びくっと体を強張らせながら前を見る。
何もない真っ暗な虚空の中、目の前にやたら不機嫌そうな目付きの悪い金髪の少女が浮かんでいた。
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