第2話
中性的な雰囲気の青髪の少女に連れられて、ギルドが運営する酒場のテーブルに到着する。
そこには青髪の少女の他、ゴスロリ風の服を身に纏った灰色の髪の少女と眠たげな様子の黒髪の少女が既に座っていた。
「話って?」
「まあ、先ずは座ってくれたまえ」
青髪の少女は大仰な動作で椅子を引くと、ぽんぽんと背もたれを叩いた。
突っ立っていても始まらないし、大人しく椅子に座る。
青髪の少女はテーブルの対面の席に座ると口を開いた。
「僕は
パーティへの誘い?
ありがたいことだが、力になれるとは思えない。
「俺は転生したばかりの初心者な上、……多分役に立てないと思うぞ」
能力のことを話すかどうか迷ったが、まだ仲間になると決めた訳ではないし隠しておこう。
「懸念しているのは能力のことかな?すまないが受付嬢とのやり取りを聴かせてもらっていた。気にすることはない」
『強化』の能力のことを聴かれていたのか。
今度からは周囲の耳に気を付けるようにしよう。
「だが何故わざわざ外れ能力の俺を?」
「ふむ。何を隠そう、我々もまた日本から転生してきたFランク能力者の集まりなのだよ」
男装の麗人、向日葵はそう言った。
全員が日本から転生してきたFランク能力者だって……?
「僕が得た能力は『固定』のFランク。直前まで触れていた物体を1秒だけ空間に固定する能力だよ。大きさは拳大くらいまでで、物質が固定されている間は何をしても動かなくなる」
1秒間だけ物体を空間に固定する能力。
同じFランクでも『強化』より使える能力かもしれない。
手を顎に当てながら情報を整理していると、沢山のフリルがあしらわれた黒地の服を身に纏う灰色の髪の少女が口を開く。
「それじゃあボクも自己紹介。ボクは清き華と書いて
「セイガ、良い響きの名前だな」
「でしょー?」
「名前が清華だとして、フルネームだとなんて言うんだ?」
俺がそう問いかけると、セイガはぷいっと視線を逸らした。
見兼ねた向日葵がやれやれと肩を竦めて口を開く。
「そいつのフルネームは
「えっ」
「
思わず声を漏らした俺に、向日葵が二回も名前を告げてきた。
ゴスロリ風の衣装を着た灰色の髪の少女、いや少年のことを凝視する。
ぱっちりと開いた青い目とすっと通った鼻筋からなる整った顔立ちで、違和感がなく女装が様になっている。
「まーでも性別とか些細な差異だよね。ボク可愛いし」
「まあ、似合ってると思うよ」
「……中々見る目あるじゃないか、キミ」
セイガは満足げに何度もうんうんと頷いた。
向日も清華も聞かない苗字だし、元の世界で近年制定された氏名自由選択法という法律による改名者、もしくはその子供とかなのかもしれない。
かくいう俺の水月という苗字も親が苗字を改名したものだしな。
「ああ、ボクの能力はFランクの『貫通』さ。ボクの攻撃は相手の硬さを無視して1ミリだけ傷付けることが出来る」
「いまいちイメージが掴めないな」
「攻撃力ゼロのふわふわの綿アメを使って攻撃したとしたら、例え鉄でもダイアモンドでも1ミリの深さの傷を付けることができるよ。まあ、ぶっちゃけ剣で普通に切っ方が強いし外れ能力かな」
確かにそうもしれない。
装甲がとてつもなく硬い敵用だろうけど、1ミリじゃ厳しいだろう。
最後に残った一人、眠たげな様子の黒髪の少女をちらりと見る。
目の下に深く刻まれたクマは睡眠不足の表れであり、その上の赤き双眸は不機嫌そうに俺を見つめ返した。
「ぼくの名は
タンバリンなんていう陽気そうな名前とは裏腹に、本来の声音から無理やり声のトーンを下げきったかのような低い威嚇するかのような声。
何か怒らせるようなことをしてしまっただろうか。
対面に座っていた向日葵が気まずそうに頬を掻きながら助け舟を渡す。
「……僕の方から良いかな。“彼”、丹羽君は事情が複雑でね。僕の男装やヒデオの女装は趣味みたいなものだけど、彼は違うんだ」
「ヒデオって言うな」
「違う……?」
途中口を尖らせたセイガからのツッコミが入ったが、俺は気にせず聞き返した。
「そ。君は転生前と体はそう変わらないだろう?」
「まあ、髪の色と目の色が変わったくらいかな」
「だろう」
俺の返答に向日葵は頷くと、続けて説明を行う。
「丹羽君は元々の世界では男の子だったんだよ。それが神様の手違いか女の子として転生してしまってね」
「えっと、つまり、元々は男子だったのに転生したら女子になっていたと……?」
「そうだ。だからぼくを女扱いはするな」
丹羽鈴はぶっきらぼうにそう答えた。
恐らく、丹羽鈴は性別関連で何か嫌な思いをしたのだろう。
何となくだが、そんな気がした。
「分かった。努力する」
……ちょっと待って、整理しよう。
つまり、向日葵が男装している女の子で、清華英雄が女装している男の子、そして丹羽鈴が本来は男の子だったのに何故か女の子として転生してしまった男の子(体は女の子)。
わ、訳がわからねぇ……!
「それと、ぼくの能力はFランクの『再生』だ。何も期待はするな」
「再生か。とても有用そうに思えるけど」
「……みてろ」
丹羽鈴はナイフを取り出すと指先を軽くなぞった。
じわりと血が滲む。
「『再生』」
そう能力名を唱えると、指先の血が止まったように見える。
丹羽鈴は指先を清潔そうな布で拭き取ると、傷口は残っているものの、止血されているようだ。
「血を止められるなら十分じゃないか」
「本質はそこじゃない。清華、ヒールを頼む」
「あいよー。“聖なる燐光にて彼の者の傷を癒し給え”、『
セイガがそう詠唱を行うと、温かな小さな光が現れて丹羽鈴の指先に触れたと思うとぱっと消えてしまった。
丹羽鈴の指先の傷口は綺麗さっぱり無くなっている。
「今のは、魔法?」
「似たようなものだが聖職者の場合は奇跡と呼ぶ。この世界には職業によって不思議な力が得られるが、その職業で得た奇跡の力の方がぼくの能力より回復力が上だ」
なるほど。
丹羽鈴が転生で得た能力よりも、職業で得られる力の方が上なのか。
聖職者に適性のある人間がどれくらいいるのかは分からないが、丹羽鈴より性能が高い治癒能力を持つ者が沢山いるのだろう。
「大体の事情は分かった。俺は水月鏡花。能力は『強化』だ。よろしく」
俺はこのパーティに参加することに決めた。
この連中であれば、劣等感などを感じずに気兼ねなく過ごせそうに思えたからだ。
「ようこそ、歓迎しよう。僕のパーティ、『ストレンジストレングス』にようこそ」
そのパーティ名はどうなの。
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