最弱認定された強化能力者は今日も少しずつ強くなる
三瀬川 渡
第1話
「能力診断の結果が出ました。誠に残念ながら、能力の階級は1番下のFランクですね」
ギルド職員のお姉さんから事務的に告げられた一言により、俺の思考は停止した。
俺の名前は
道を歩いていたら通り魔に刺され、気が付いたら死後の世界で女神を自称する怪しげな人にこんにちは。
異世界に新しい体を造って生まれ変わる『転生』か、魂となって冥界で永遠に暮らす『成仏』かを選べと言われたので転生を選んだ次第である。
転生特典として、ランダムに能力を一つ貰えるというのもの大きかった。
そういうのにときめくお年頃だったのだ。
結果、元々の肉体年齢と同じ15才の体で神殿と思しき場所で目覚めると、巫女らしき人に最寄りのギルドへ行くように勧められ、その言葉に従ってギルドでステータス測定という物を行ったらこれだ。
思考の整理はこれ位にして、話を現在の場面に戻そう。
ギルド職員のお姉さんの指示に従って不思議な水晶に手をかざし、ステータスと能力の測定をしたところ、冒頭のあの評価を受けたのだ。
つい今しがた言われた「残念」だとかFランク」だとかの言葉が脳内で反芻される。
「えっと、それはどういったことなのでしょうか……」
ようやく絞り出した俺の台詞を聴いた職員さんは気まずそうに目を伏せる。
ちなみに言語は普通に日本語が通じる。
この
「この世界で転生者は
言葉を濁す職員のお姉さんを見て、結果が芳しくなかったのだということは薄っすらと予想がついた。
「教えて下さい。どんな能力だったんですか?」
俺の催促を受け、お姉さんは観念したかのように渋々説明を始める。
「貴方が得たのは『強化』の能力です。この能力は世界で1番多い能力とされています」
「それがどうして残念なんですか?」
「沢山いるので競争率が高いのです」
なるほど。
「能力は同名のものでも性能が異なり、その効果によりランク付けされています。階級は上から順にSランク、Aランク、Bランク、Cランク、Dランク、Eランクと続き、1番下がFランクとなっています」
確かお姉さんは冒頭で俺の能力は強化能力のFランクと言っていた。
競争率が高い『強化』能力の最低ランク。
それじゃあ残念と言いたくもなるか。
「同じ能力でもどれくらいの差が出るんですか?」
「大凡の目安ですが、Aランクであれば1時間に渡り対象を300%ほど強化できるそうです。Bランクであれば10分の間100%上昇、Cランクなら1分間50%、Dランクで30秒間20%、Eは5秒10%……」
「えっと、ちなみにFランクは?」
「Fランクは1秒の間1%と言われています」
つまり握力が100キロの人を強化したら、1秒間101キロになるということか。
つ、使えねぇ……!
「で、でも能力を成長させれば──」
「能力の成長は期待しない方がいいです。ステータスはレベルを上げれば上昇しますが、能力の方は成長する条件が分かっておらず、初期のランクのまま生涯を終える冒険者の方がほとんどです」
「そんな……」
「強化の能力は重ね掛けすることが出来ず、二人で同時に使用した場合はより強い効果の方の強化に上書きされます。この特性のせいでパーティメンバーに強化能力者は一人いれば十分というのがセオリーです」
強化の能力は重複出来ないのか。
そうなるとせっかくパーティに入れて貰えたとしても、後から高いランクの強化能力者が加入してきたらパーティを追い出されたりするかもしれない。
「教えていただきありがとうございました……」
「ギルドカードは身分証にもなるので、冒険者になる意志がなくても発行だけしておいた方がいいですよ」
「じゃあ、お願いします」
とは言ったものの、もしこの世界で普通の仕事が見付からなければ冒険者となって日銭を稼ぐしかないだろう。
参った。
「お待たせしました。こちらがギルドカードとなります」
渡されたカードに記されている文字の羅列を目で追っていく。
────────────
水月 鏡花Lv.1
生命力10/10 精神力8/8
筋力9
耐久8
敏捷10
魔力8
魔法:
状態異常:
能力:強化【F】
────────────
状態異常などの項目があるのか。
「そちらに記されたステータスはリアルタイムで変動するようになっています。状態異常なども表示されるので、違和感があったら確認することをお勧めします」
そうなのか。
それならば試しに能力を使ってみよう。
「能力ってどうすれば使えるんですか?」
「対象を選択して心の中で能力の名前を念じてみてください。慣れない内は声に出してみると良いかもしれません」
「ありがとうございます。えっと、ステータスを、……『強化』!」
────────────
水月 鏡花Lv.1
生命力10/10 精神力8/8
筋力9
耐久8
敏捷10
魔力8
魔法:
状態異常:強化0:01
能力:強化【F】
────────────
能力は発動されたようだが、ステータスに変化はない。
「あー、ステータスの表記は小数点以下切り捨てなので表記されていないだけで、実際はちゃんと掛かっていると思いますよ」
「そ、そうですか」
改めて外れ能力を引いてしまったことを自覚してがっくりしてしまう。
冒険者になりたかったがこの能力では厳しそうだし、この世界の一般職を探した方が良いのかもしれない。
とりあえずは情報収集にでも出掛けるか。
「色々ありがとうございました。自分の方でも色々調べてみます」
「ギルドでは初心者応援の一環として、ビギナーの方向けに最低限の寝所があります。どうしても宿泊施設が見つからない時はご利用をお勧めします」
「分かりました」
確かギルドの裏手に馬小屋みたいな建物が連なっていたが、恐らくあれのことだろう。
元の世界のふかふかベッドが恋しい。
職員のお姉さんに頭を下げて、受け付けを後にする。
はてさてどうしたものか。
溜息を吐いて歩き出したところで、ぽんぽんと肩を叩かれた。
振り向くと美少年、いや美少女か……?
どちらとも取れる中性的な同い年くらいの子がニコニコしながら立っていた。
「やあやあ新たな同士よ──」
その少女(少年?)は肩口にかかる柔らかそうな蒼い髪を揺らしながら小首を傾げる。
「少し、君と話をしたいんだが、いいかな?」
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