第5話 特訓
ノブはミラと会ってから3年が経過していた。毎朝、 重いコンダラを着けての走り込みが日課となっている。 ステータスは、認識阻害のバンダナを着けているからノブ本人でもわからない。このバンダナは、どっかの中忍試験を合格するともらえるようなやつに似ている。
「よう、ノブ。今日も始まりの洞窟か?」
「 ああ、行くつもりだ」
「そうか。頑張れよ」
街のみんなは、ノブを馬鹿にする者もいれば同情や哀れみの目を向ける者ばかりだ。 共通していることは、みんなノブのことを下に見ているということだ。 ノブ自身はシステムが違うのだからレベルが上がらないと割り切っていた。ノブは走り込みが終わりギルドに行きクエストを受けに向かう。
ギルドの朝は、騒がしい。ギルドへの依頼が張り出され、我先へと冒険者でごった返す。
「おうそこねーちゃん、そんな弱いレベルで冒険者になるつもりか?」
「あわわわっ 私は、冒険者になりたいだけです。 」
16歳ぐらいの魔法使いのような感じの女子がガジルに怯えていた。ガジルは、女子だろうが容赦しない。
「ガジル先輩、いくら趣味とは言え可哀想じゃないですか。俺が相手をしてやるよ」
ノブはそう言ってスッと女子の前に出てガジルと対峙した。
「いいだろう、お前は強くなったんだろうな?」
「ああ、かかって来いやー」
ガジルが襲ってきた。殴打の音がギルド内に響き渡る。常連のヤツラはいつもの事なので見向きもしない。恐ろしく大きな殴打の音の後にギルド内が静まる。
「ふっ、今日はここまでにしてやる」
ノブは全身ぼろぼろだ。ガジルからの攻撃を全て受けた。 それは、ミラからの命令で反撃を許されていないからだ。
「ふん、それは俺のセリフだ。次こそは強くなってからこいや 」
ガジルは興味が失せたのかギルドに併設されている酒場に足を向けて歩いて行った。
「 もう大丈夫ですよ」
「あっありがとうございます。わっ私は登録があるのでこれで失礼します」
魔法使いの女子は、そそくさとカウンターへと行ってしまった。たまに新人冒険者がガジルとやりあうのだが、助けても感謝されることはない。
ガジルは、レベル1の者のみに絡む仕様だ。 通常、始まりの洞窟をクリアすればレベルが上がる。つまりチュートリアルという始まりの洞窟を受けてない者への警告である。ただし、ノブだけはレベル 1のままだから毎回ガジルに絡まれる。
「大丈夫ですか? 今、回復させます」
「アリスさん、いつもありがとうございます。」
「いつも言ってますが、無茶をしないでください。」
ノブは、いつも通りヒーラーのアリスに回復してもらう。
「さて カウンターでいつもの薬草採りのクエストを受けるか。」
今、始まりの洞窟の中にいる。
始まりの洞窟は、レベル1かNPCでないと入れない。ミラはああ見えてNPCだ。だから、 入れるので端の見えないところにベッドや家具を置いて住居にしている。雨露凌げればどこでも良く、面倒だからここにしたそうだ。
「おはようミラ」
「おはよう、ノブ。朝の鍛錬をしなさい」
ミラに言われもなく行くつもりだ。
「ああ、行ってくる」
朝の鍛錬とは、始まりの洞窟でテンスラをひたすら倒すというやつだ。 テンスラは3分間はひたすら湧いて出てくる。これを12回繰り返す。
「うぉー」
テンスラの急所である仮面は、上中下と左右にランダムで現れる。それを一撃で倒していく。昔、叔父さんの家にあったファミコンのなんとかの拳に似ている。あれも急所が上中下に現れてそこを攻撃するシステムだった。12ラウンドを終えると午後まで休憩だ。午後からは、キメラ釣りだ。俺が囮になりキメラに遭遇する。
「ミラ! 今だ」
「フィ~ッシュ」
そして俺が吊られれキメラも一緒に釣られる。
「ノブいつもどおりノーガードよ」
キメラの攻撃をダメージ覚悟で戦うノーガード戦法だ。ボクシング漫画のように手をだらりと下げてはいない。 狙いは、キメラの毒、石化、麻痺といった状態異常の耐性とダメージによる防御力の向上を意図しているんじゃないかと思っている。なにせ、ステータス閲覧禁止だから憶測でしかない。
いつもどおり時間は掛かるがなんとかキメラを倒すことが出来ている。キメラを倒すとミラと今日の振り返りだ。 大きな失敗は、なくなってはいるが、改善点はまだまだたくさんある。
「もうそろそろ、一万時間になるわね」
「それが何か?」
「鍛練を一万時間続ければ達人として、はじまりのスタート地点に達したのよ」
「なんだその球団の元監督のようなコメントは?」
ミラの得意の古代人のことわざらしいがいろいろ混ざっていることが多い。
「とりあえずは、一人前になったってこと?」
「まあそうとらえてもいいわ。一人前になったからステータスを見れるよう解除するわ」
ミラは、手刀で俺のバンダナを切断した。
「さぁ、ステータスを確認してみて」
俺はメニューウィンドウを出しステータスを確認してみることにした。
なまえ : ノブ
ねんれい : 17
しょくぎょう : ニート
レベル : 1
HP : 141421356/141421356
MP : 210/210
ちから : 312
すばやさ : 21
たいりょく : 512
かしこさ : 10
うんのよさ : 10
のうりょく : 格闘L12、投擲L5
睡眠耐性、毒耐性、石化耐性、麻痺耐性
「 ファっなんだこれ? HPだけが異様に高いぞ」
「そうよ、ダメージを食らうたびに最大HPが増えるのよ。あとは予想通りね」
ノブはてっきり 防御力に直結している体力がもっと上がっていると思っていたが違っていたようだ。ガジルのおかげでHPが半端ない上がり方していた。
「さて、基礎は完成したから拳法を教えて上げる。その拳法と習得した後にある試練を受けてもうるわ。試練に乗り越えたら初段となるの」
「理解したがスキルみたいに習得できるの?」
「大丈夫よ。超古代人はみな使い手だったと文献にかかれているわ。」
「わかった、それはどんな拳法?」
「殴打、斬撃、放出の三種類を使い分けるの」
(なんか嫌な予感がする。)
「その名前は?」
「ジャンケンドーよ。ブルズ ・ リーが編み出したと言われているの」
「名前違うよ、それに拳法はジークンドーだから。やっぱりそんなことだろうと思ったぜ。たしかにみんなじゃんけんはしていたけど某ハンターライセンスの少年みたいにできないよ。」
「みてなさい、これが接近時の殴打の技、グーナックル」
エフェクトがグーの手が燃えていて格闘ゲームの赤い帽子を被ってる兄貴のような技だった。
「次にこれが、斬撃のチョキスラッシュよ」
このエフェクトは竜冒険のヒーローの使徒が最後に体得するスラッシュに似ている。
「最後が遠距離に対して行う放出系の技、パー玉よ」
ミラは右手首を左手で握りながらボール状の
物体を出し付近に投げつけた。
「なんで日本語なんだ、それに竜玉のかませ犬が使う技に似ている。」
「どう?すごいでしょう」
「ああ、すごいな。(棒読み)」
「これからスキルを取得してもらうわ。 スキル取得には、2種類の方法があるの。一つ目はある条件を満たしていると自分で取得するの。二つ目は、スキルマスターした人からスクロールでスキルを伝授してもらう方法があるわ。」
そう言うと、ミラはスクロールを出した。
「さぁ、受け取って」
ノブはミラからスクロールを受け取るとすぐに開き読んでみた。だか、何も起きなかった。
「なぁ、スクロールを読んだけど何も起きないぞ。ゲームだったらこうパーっと光って習得できるんじゃないのか?」
「やり方が間違っているわ。スクロールを食べるのよ。そうしないと血肉にならないでしょ。」
「暗記パンかよ。確かに直ぐに習得するには何かの方法で、吸収が必要だけどまさか食べなければいけないとはこのゲームを作った運営は、糞だな。」
「何してるの?早く食べなさい。」
「えー、これ食べるのかよ。見た目がグロいんぞ。」
「大丈夫よ、食べやすいようにイチゴミルク味になっているわ。」
「俺は人工のイチゴ味がどうも苦手なんだがしょうがない食べるか。」
ノブは渋々、スクロールを食べ始めた。味は、イチゴミルク味だった。やはり本物のイチゴと違って何か人工的な味がして食が進まないようだ。
「やっぱり、イチゴミルクの味はなれないなー、これで最後の一口だ」
その一口を食べ終わるとメッセージウィンドウが現れた。
【ジャンケンドーを習得】
「さあ、これから修行の旅に出るわよ」
ノブは旅の支度をするために家に帰ることになった。
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