第8話

――――――――――――――


(くっそ・・・この俺様をバカにしやがって・・・。プサイル家の息子だぞ・・・。)

心の中で毒づきながらソール・プサイルは部下の兵士2人とソール等の詰め所へと走って行った。詰め所と城は離れているため、城内でソール達は使用人の服をかっぱらった。

(噂にでもなって第3王子の耳にでも入ったら・・・。)

ソール・プサイルは第3王子ウェイア・ドラグレス・ガーランディア率いる騎士団に所属している。しかしながら騎士団とは名ばかりであり、町のチンピラや貴族の問題児をウェイアが集め、勝手に騎士団と名乗っているのである。その騎士団の構成からわかるように、王国を守る騎士団としては全く機能しておらず、町を練り歩き、城下町の酒場で飲み喰いし暴れるなどしている。正式な騎士団ではないにしろ、第3王子の名前があるため直接の注意も出来ず、城下町の住民も頭を抱えていた。ソールはプサイル家の中では落ちこぼれであり、ウェイアに声をかけられ騎士団に所属した。第3王子の庇護の下好き放題することで、自分が落ちこぼれていることを忘れられていた。

「ソール様。ようやく詰め所っすね。」

「ああ。」

ソール達は、詰め所の自分たちの部屋にようやく着き、その扉をあけ、固まった。

「・・・よぉ!ソール!待ってたぜ?かなり早いな。仕事が早いのはいいことだ。早速メイドで遊ぶとしようぜぇ?」

部屋の真ん中には金髪の男が肘をつきながら椅子に腰をかけており、その横にはモノクルをかけた長髪の男が立っていた。金髪の男こそ第3王子、ウェイア・ドラグレス・ガーランディアであった。

「ウェイア・・・様・・・!?今日は外出されていると・・・。」

「おう。おまえが俺様のために頑張ってくれるって言うからよ。少しばかり早く帰ってきたんだよ。まぁ、無理言ってすまなかったな。俺様が気に入ったメイドを攫ってこいなんてよ。枯れた庭師のじじいの相手をさせてやるのはもったいねぇ女だよな。そうだ!じじいはどうした?もっと痛めつけてやったか?・・・おいおいどうしたんだよ浮かない顔しやがって・・・。」

(くそっ!・・・どうしてこうなる・・・!)

「・・・女はどうした?まさか、3人で武装してじじい一人なんとか出来なかったなんて言わねぇよな。・・・というかおまえら鎧はどうした?・・・まさか遊んでたなんていわねぇよな!?」

ウェイアが腰の剣に手をかけながらソールを睨む。

「違うんです!ウェイア様!変な男がやってきて!そいつに邪魔されたんです。鎧もそいつにとられたんです!この国では珍しい黒髪の男で・・・!」

必死でソールは弁明をする。ソールはここ最近ウェイアがおかしくなってしまっていると感じていた。今まで城下町の酒場で暴れるなどやんちゃをしていたが、最近はその比ではなかった。ウェイアの無理難題をこなせなかった騎士団の一人がウェイアにより滅多打ちにされたのだ。気分が高ぶるとウェイアの理性のたがが外れたようになってしまうのであった。

「つーことはだ。おまえ等はその男の前で愉快にストリップでもしたっていうのか?」

「違います!そいつがスキルか魔法か何かで俺等の身ぐるみを剥がしてきたんです!一瞬で・・・。見たことも聞いたこともないスキルでした・・・。」

「・・・ほう。とても面白いですね。ソール様。是非その男の話を聞かせてもらえませんかねぇ?」

今まで何の反応も示さず話を聞いていた長髪のモノクルをかけた男が話しかけてきた。このモノクルの男は最近騎士団に入った男である。

(こいつ・・・グリンといったか?よくわからねぇがウェイア様とうまくやってやがる。)

「その男、黒髪で特殊なスキルを持っているとなると・・・異世界転移者の一人ではないのですかねぇ?」

「おー。グリンさん。ご名答だよ!そういや親父殿が魔王軍に対抗するために異世界転移の魔術を執り行うとか言ってやがったなぁ・・・。」

「いえいえ、そうですか・・・やはり・・・。異世界転移者が相手では、プサイル家のソール様もなす術もなくやられてしまっても仕様がありませんなぁ・・・。王子殿下もその寛大なお心で是非お許しいただけると・・・。して、その男はそれ以外に何か特殊なスキルなどは使いましたか?」

グリンは王子へと一礼し、笑みを浮かべながら興味深そうにソールへの質問を続ける。

(この笑顔・・・。こうして丁寧に接してはいるがこいつは俺等のことをなんとも思っちゃいねぇ・・・。そいつはわかる・・・。前も詰め所の兵士がウェイア様にめちゃくちゃにされたときも表情変えずに見てやがったんだ・・・。)

「それ以外は特に・・・なにもねぇよ・・・。」

「・・・ほう・・・そうですか・・・。ソール様、ご苦労様でした・・・。時に王子殿下。今回は何人の異世界転移者が召喚されたのですかな?」

「男が3人と女が2人だったか?かなり高位の職業で召喚されたらしいな。しかも、女はかなりの上玉らしいぜ。ひひ。」

「なるほど・・・。王子殿下、すこしその異世界転移者にこの国のルールを教えてやる必要があるかもしれないですなぁ・・・≪≪ねぇ、王子殿下?≫≫」

「うっ・・・そうだな・・・この国のルールを教えてやらなきゃな・・・」

「そうですよ・・・!ソール様に逆らったということは王子殿下に楯突いたと言うことですからね。ついでに・・・≪≪異世界転移者の女もめちゃくちゃにしてやりましょうよ≫≫。ねぇ・・・」

「・・・ああ・・・そうだな。この俺に、この俺様に楯突いたんだ・・・・!」

グリンは紫色の瘴気を放ちながら、第3王子に話しかける。その瘴気が発生していることに、王子やソール達は気がついていない。うつろな目をした王子達を前に、グリンは静かに笑っていた。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る