第61話〜産声

トモは一度死んだ。


死んだことで全ての枷は消失した。


トモを縛っていた呪縛は消えた。


スキルの恩恵も効果も限られたものを除けば死を契機に失われる。


死霊魔法や降霊術、死後に発動するように予め組み込まれていた契約魔法でもなければ、死は平等に全てに終わりをもたらす。


トモは蘇った。


本来であれば不死鳥と契約するか加護が与えられない限り手に入ることのないユニークスキル、【不死鳥の涙】によって。


一度死んだことで全てがリセットされた。


トモは蘇り、スキルや術式、契約魔法などによって封じられていた全てが解放されて。


それは図らずもスキルを用いない洗脳による支配までも解いてしまった。


そして封じられていた記憶も同時に取り戻した。


クリスもロズウェルも、屋敷にいた全員がその場を離れた深夜零時に、灰の中から蘇ったトモは全てから解放されたことに呆然とし、絶望した。


思い出した。


思い出してしまった。


全てを思い出してしまったのだ。


混乱し、呆然とし、絶望した。


半ば無意識にその場を立ち去ってから数日。


トモは町中を彷徨い歩いていた。


誰一人に認識されることなく。


元々の素質もあり、封印されていたスキルの中にはトモの技能がスキルにまで昇華したものも複数あった。


無意識に気配を消し、音を消し、匂いを消し、魔力を消し、存在そのものを消していた。


そしてようやく定着した記憶と精神が一致し、狂乱状態が解けたトモは、もう数日前までのトモではなかった。


本当の意味で、トモとなった。


自分の意思を持たなかった殺し屋は死に、自分の意思を持った無言の復讐者が生まれた。


トモは音の出ない喉から産声を上げ、そして自分の意思で大地に立った。


そして…






ロズウェル邸に家令と侍女の悲鳴が響き渡った。


いつまで経っても部屋から出てくることなく、外からの呼びかけにも応じない主の身を気遣い部屋へと入った彼らが見たもの。


それは髪の色を抜け落ちさせ、恐怖に歪んだ表情のまま無傷で絶命したロズウェルの変わり果てた姿だった。


部屋に鍵はかかっていなかった。


余りの様相に毒や何らかのスキルや魔法が疑われたが、僅かな痕跡も発見されず、心臓の発作によるものとして処理された。


裏表共にこの街の支配者であったロズウェルの死は大きな波紋をもたらしたが、それも時とともに落ち着いていった。


この街から一人と一匹の姿が消えたことを気にする者はごく少ない者たちしかいなかった。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る