第60話〜過去

『……の子の名前はトモだ』


『ふふ、元気な子ね。あなたに似たら静かで優しい子になるのかしら』


『君に似たら腕白になるだろうね』


『そうかしら?きっとお淑やかで可愛らしい子になるわ』


『……この子は男だが』







『あなた……ごめんなさい…』


『いいから、もう喋るんじゃない』


『…この子が、せめてこの子だけでも無事なら…』


『大丈夫だ、こんな傷、すぐ塞がる。だからもう無理はするな』


『ああ、トモ…。私たちの子…。ごめんね、私が世界を恨んで、魔王なんかにならなければ…』


『こうして出会え、愛し合うことができた。だから後悔なんかしなくていい』


『ごめんなさい、あなた。…私が、勇者のままだったら……あなたにも、この子にもこんな辛い思いをさせずにすんだのに…』


『君が魔王になり、僕の洗脳を解いてくれていなければ、きっと僕は帝国に使い潰されていた。後悔なんか、しなくていい』


『あなた…』



『この子を、トモをお願いね』






『今更になって、帝国が僕に何の用だ』


『誓灰の魔王は死んだのでしょう?不死鳥の加護を持つあの魔王には散々苦渋を飲まされてきましたが、この場に姿を現さないということは、やはり加護の消失は本当だったようですね』


『…何の用だと聞いている』


『いやなに、ここ10年ほど新たな勇者が召喚されていません。近々魔王軍殲滅のために大規模な作戦があるので、飼い主の手を噛むような駄犬でも、いないよりは役に立つということです。今度こそ外れないように厳重に鎖につないで、ね』


『帝国に戻る気はない!知っているはずだぞ。帝国が勇者に何をしてきたか。お前だって』


『知ってますとも。私たち勇者が帝国の手駒としていいように使われていることなど。現に私は洗脳の現場に居合わせたこともある』


『ならば…』


『だからなんだと言うのです?逆らったところで貴方のようにコソコソと逃げ回り、最終的に始末されるか、再び使い潰されるかの違いしかありません。さぁ、大人しく首輪を付けられるか、始末されるか選びなさい』





『トモ…ごめんな。父さんは……』





『ロズウェル、トモに何をした!』


『ああ、なんだ貴方ですか。お久しぶりですね。どうしたんです?』


『裏切ったな、ロズウェル!』


『裏切ってなどいませんよ。ただお預かりしたお子さんを責任を持って教育しておいただけです』


『教育だと⁉︎あの髪はなんだ!それに、トモの首の傷は!』


『貴方が知る必要はないですよ。知ってますよ?貴方、スキルのほとんどを失ってますよね。夫婦揃って馬鹿なことだ』


『お前……どこまで知っている』


『さてね。まぁ何はともあれ、今の貴方程度でも帝国にとっては貴重な戦力です。魔王軍からかけられた懸賞金なんかよりもよほど高い値段でしたよ』


『なにを…』


『トモ、【捕獲せよ】』


『な!やめるんだ、トモ!』


『ふふふ、さすがの貴方も息子には手は出せないでしょう。安心なさい、悪いようにはしませんよ。親子共々、ね』

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