第59話〜灰とともに燃え上がらん




『みつけた』




ロズウェルには何が起こったのか分からなかった。


気付けば音が消えていた。


世界から色が消えていた。


ロズウェルは死んでいた。


いや、死んだのならばこれを認識しているのは誰だ。


何が起こった。


何が起きている。


どうなってしまうんだ。




永遠にも思えるほどに長い、長い走馬灯、そうだ、走馬灯だ。


ロズウェルは走馬灯を見ていた。


音も色も自分という存在すらもないこの一瞬で。


時すらも止まってしまったと思えるこの瞬きにも満たないこの一瞬に。


”ソレ”はゆっくりとした足取りで現れた。




(お前は…なぜここに!いや、なぜ生きている!?)


光以外がほぼ停滞したこの世界では思考することしか許されない。


にも関わらず整然と、場違いなほど淡々とした歩調で”ソレ”は現れた。


いや、最初から居た?


足音などないのだから、最初からこの部屋に居たのだ。


窓も扉も動かせないというのに、足音を立てて訪れられる者などいるはずがない。


”ソレ”は一瞬ロズウェルが知っている者に見えた。


ほんの数日前に灰になったはずだった。


遠目にだがロズウェルは見ていた。


そして直接確認もした。


あれがいた場所には僅かな灰と、防具の金具の成れの果てしか残されていなかった。


それしかなかった?


ほんの僅かな、灰しかなかった?


燃やし尽くされ、ほとんど灰も残らず焼失したのではなかったのか。


あの一瞬で、どうやってか生き延びていた。


そしてロズウェルの目の前にやってきたのか。


いや、違う。


こいつは、”コレ”はあの混ざり物の勇者もどきでは…⁉︎


『やあ、ロズウェル。久しぶりだね』


”ソレ”はにこやかに、そう、笑みを浮かべて。


感情豊かに笑ってみせた。


(貴様は何者だ!)


『何者?』


”ソレ”はキョトンと、何を言っているんだとばかりに首を傾げた。


『僕のことを忘れたのかい?酷い人だ、ロズウェル。僕はトモだよ』


(嘘をつくな!トモは死んだ!勇者の炎に焼かれて!)


『死んでなんかないよ。いや、正しくは死んで生き返ったのさ。ユニークスキル【不死鳥の涙】のおかげで、蘇生したんだ』


(なん、だと…?ユニークスキル?)


『さすがに死ぬ前からなかった声帯は戻らなかったみたいだけどね。だから、他のユニークスキル【以心伝心】を使って直接意思のやり取りをしてるんだ』



(き、貴様は…何者なんだ…?)


ユニークスキル、特殊能力とも呼ばれる規格外の能力。


ユニークスキル自体は少々珍しいが持っている者はいる。


むしろA級以上のトップランカーになる者はほとんど持っている。


しかしそれは一人につき一つだけのはずだ。


複数のユニークスキルなど聞いたことがない。


いや。


ロズウェルもスキルに関する知識は豊富とは言えない。


それにもしや勇者とは、神々の恩恵たるスキルに愛されし存在なのか。




停滞した時の中で、トモはロズウェルのすぐ前まで移動し、


『だから言ってるじゃないか。僕はトモだよ。いや、訂正しようかな…』




『僕がトモだよ』



嗤ってみせた。

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