第58話〜ユキの成長
「あら久しぶりねぇ、元気にしてた?今日はメンテナンスかしら?……新調するのね、じゃあこれなんてどうかしら?」
マゼンダは訪れる馴染みの冒険者と挨拶を交わしながら、店を閉じている間に来た依頼などをさばいていた。
防具類のメンテナンスや新たなオーダーメイド依頼、素材の持ち込みの査定など、忙しくはないがそこそこの頻度で暇な時間はそれほどない。
街の中心から外れ、過疎な場所でさえこれなのだ。
大通りやギルド、門の近くに店を出していたら決して一人で店を回す事など出来ないだろう。
やがて日が暮れはじめ、訪れる人影もなくなった。
マゼンダは大きく伸びをして、店仕舞いすると、隣の住居兼工房へと移動する。
「ただいま〜、ユキちゃん、帰ったわよぉ〜」
マゼンダが扉を開けて入ると、汚れた布で古い防具の手入れをしていたユキがビクリと震える。
そそくさと柱の陰に移動したユキは顔の半分だけを出してマゼンダの方を見て、小さくおじぎをする。
「可愛いわぁ♡やっぱりうちの子にしたいわぁ」
そんな側から見たら愛らしくて仕方のないユキにマゼンダは全身をクネらせ、しならせて悶える。
ミチミチと絞られた筋肉が自己主張する。
その様子にユキは完全に柱の陰に隠れてしまった。
トモが出て行ってからユキは防具類の手入れや簡単なメンテナンス、他にも旅をするのに必要な技術などをマゼンダから学んでいた。
レベルアップにより人化することができるようになったことで、トモの役に立てることをしたいと願い出た結果である。
これまたレベルアップによって精神力が強くなったからか、ユキは極度の人見知り程度にまで改善され、なんとかトモがいなくても大丈夫になった。
もっとも、まだ室内からは出られないし、知り合い以外に二人以上が近くにいると狂乱状態に陥ってしまうが。
マゼンダもトモの知り合いだからなんとか耐えることができるようになった。
というよりならざるを得なかった。
トモが解放されるには何重にも重なった枷や呪いを解かなくてはならない。
そしてその為には何をすべきか調べるには危険が伴い、いつまでもユキを連れては行けない。
今のトモもレベルが上がったとはいえ、すべての危険からユキを守りきることは不可能だ。
だからトモはマゼンダにユキを預け、危険の中へと飛び込んで行った。
そして3日経つが帰って来ない。
明日にはマゼンダの依頼でお姉様とやらがやってくることになっている。
にも関わらずトモが帰って来ないのは、まだ情報を探っているのか、それともすでに手遅れなのか…。
どちらにせよ、待つことしかできないユキは自分にできることをやることで不安を忘れることしかできなかった。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます