第51話〜雪、ユキ、スノウ
あったかい…。
かあ様に全身を包まれてるみたい。
けどちょっとちがう。
かあ様はもっとふわふわしてて、さらさらしてて、おちつく感じがする。
これはあったかいけどふわふわしてないし、さらさらもしてない。
けど、安心する。
起きたら暗かったけど、ちゃんと目が見えた。
どこも動かなくない。
…いたいけど。
さむくないし、つめたくもない。
やわらかな何かに包まれてる。
それと安心するにおい、する。
…トントントン
なんの音だろう?
…カチャカチャ
それにここはどこ?
わたしはこわい人たちから逃げてきて、どうなったのかな?
…トンッ
近くに何かおかれたみたい。
あったかくて安心するものを押しのけて、顔だけ出してみる。
目の前にはリンガみたいな、だけど小さくてゴロゴロしてるものと、ゆげの出てる白いミルクがあった。
食べたい、そう思ったけど、すぐ近くに人がいるのが見えて、からだがうごかなくなった。
こわい、こわい、こわい!
からだがふるえて、どんどん力が入らなくなる。
逃げたいけど、まだ足がいたくて…。
あれ?
あまり、いたくない?
人が目の前にいるのに、わたしはつい足の方を見る。
血が出てたはずの足には真っ白な布がまいてあった。
その白い布からは、周りのあったかいのと同じ安心するにおいがする。
おもいきって顔を上げてみた。
そこにはわたしがいた。
ちがう、人だ。
真っ白で、安心するにおいがして、他の人とちがってわたしをこうげきしようとはしない。
人なのに、すごく安心する。
なでられた。
からだはびくっとしちゃったけど、でも、あったかかった。
まだうまく動けないわたしに、その人はミルクを飲ませてくれて、小さな欠けらも食べさせてくれた。
いつも食べてるリンガとは少しちがうけど、やっぱりリンガだった。
『白くてふわふわしてて、雪みたいだ』
なんとなく、その人がそう言っている気がした。
なでてくれる手を通して、あたたかいものが伝わってくる。
『帰る場所はある?』
かえるばしょ、それはかあ様たちと住んでいるどうくつ。
でもあそこはここからとっても遠いところにある。
『帰りたい?』
かえりたい。
かあ様に、ねえ様に会いたい。
けど、どうやってかえればいいんだろう。
『分からない?』
分からない。
でもかえりたい。
『ならしばらくここにいるといい。傷が治って、ちゃんと一人で帰れるようになるまで』
ひとりで?
『そう。僕はこの街からは出られないから』
この人の顔はまったくうごかない。
でもさびしそうだった。
わたしと同じだった。
だからかもしれない。
人だけど、まだ、からだはふるえるけど。
この人といっしょにいたいな、って思った。
今すぐかえりたいけど、この人ともいっしょにいたかった。
その人はわたしをなでてくれていた手をはなして、今度は手のひらを上にして出してきた。
わたしは自然と前足をだして、その手にかさねてた。
『僕はトモ。よろしく、雪みたいに白くて、ふわふわして、可愛らしいおじょうさん』
これがわたしとトモの出会い。
雪はユキともスノウとも言うんだって、トモがわたしに教えてくれた。
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