第50話〜スノウ④

『わ…の…をどこへ…た‼︎……も!』


遠くでねえ様の声が聞こえた気がした。


でもそんなわけない。


ここは人のまち。


どうくつからはすごく遠いって言ってた。


「おい、あれモンスターじゃないか?」


「きゃー!スノウウルフよ!」


「門兵は何をしてるんだ!早く衛兵を呼べ!」


「門で騒ぎがあったらしい!衛兵はそっちに向かってるそうだ。この中に冒険者はいないか⁉︎」


こわくて、いたくて、いつの間にか自由になってた前足をひっしに動かしてにげた。


後ろ足はツタみたいなのがからまってうまく動かせない。


口を閉じてたツタは前足でかいてはずした。


とにかく遠くへにげようと思って、でもたくさんの人がいてうまくいかない。


「おい、いたぞ!あそこだ!」


とつぜん後ろ足があつくなって、目がチカチカした。


前足がもつれてなんどもころがった。


いたい!いたい!あつい!


見たら足から真っ赤な血がたくさん出てた。


近くの地面にキバみたいなものがささってた。


「ひゅー!毎度ながらお前の投げナイフの腕はさすがだな!」


「ハハ、モンスターのガキだから狙うなんて簡単簡単。あんま胴体に傷付けちまうと毛皮の価値が下が…っておい!」


いたくて、あつくて、血もたくさん出たけど、からまってたツタみたいなのが切れて外れてくれた。


だからさっきより早く走れる。


かあ様に傷あとをなめてもらいたい。


ねえ様にやさしくなでてもらいたい。


丸まってじっとしていたい。


でもつかまったらきっともっとこわい。


わたしはとにかく走って、走って、気がついたら目の前がまっくらだった。

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