第35話〜開放
微かな目眩と共に、ランドルフ=イゴールは目を覚ました。
いや、寝ていたわけではないのだから目を覚ましたというよりは、ぼーっとしていた意識がはっきりとした、と言うべきか。
「ランドルフ様、如何なさいましたか?」
部下の1人がいつもと様子の違うランドルフに声をかけた。
「いや、なんでもない」
そう言った彼の様子は、すでにいつも通りのギラギラとした野心に溢れたものへと変わっていた。
「おい、今すぐトモを呼び出せ」
「はっ」
部下の1人が部屋の外へと出て行った。
そして大した時間もかからずにトモを連れて戻ってくる。
雑踏に紛れれば一瞬で見失ってしまうであろう気配の希薄さと特徴のなさが特徴の組織の殺し屋。
そして何よりただの殺し屋と違ってトモは…
「現時点をもって貴様との契約を全て破棄する。もうお前は自由だ。どこへでも行きたいところに行っちまえ。『氷檻の鍵は開かれる』」
ランドルフの言葉でトモを拘束していた枷という枷が解かれる。
そして最後に部下の1人がトモの首に付けられていた隷属の首輪を外せば、本当の意味でトモは解放された。
部屋から出て行ったトモを見送ることもなく、ランドルフは改めて深く腰掛け、笑みを浮かべた。
「これで俺様はこの街の最高幹部だ。…やれ」
「はっ」
すぐさま部下の1人が懐から短刀を取り出す。
そして何の躊躇いもなくランドルフの心臓に突き立てた。
他の部下や護衛はそれを見ても何の反応もしない。
ランドルフ自身もそれを笑いながら受け入れた。
そしてランドルフが死んだことを確認すると、部下や護衛たちは各々の得物を取り出し、殺し合いを始める。
数分後。
部屋には誰1人として生存者はいなくなった。
【万物の図書館】
本棚に囲まれた広いスペースには4つの影があった。
「よくやってくれた、十戒。これでトモがあの街に縛られる楔は外すことができた」
「いえ、あの程度の輩、問題にもなりません。それよりも、神獣の娘を逃してしまいました」
「問題ない。楔を外すことができただけで十分だ。それにあれはイレギュラーってやつだしな」
アキサメは頭を下げる十戒を叱ることなく笑って許す。
元々の計画ではトモと神獣は別々に接触する予定だった。
それがトモが神獣を保護しているという報告があり、予定を変更したのだ。
神獣の少女に攻撃されることなど予定外だった。
「ま、これからどうなるかは俺たちの働き次第だ。さっさと終わらせて部隊にもどらねぇとな」
「「アキサメ様」」
アキサメに声をかけたのは図書館の番人兼司書の双子。
「どうした有耶無耶姉妹」
「ウヤです」
「ムヤです」
「「ウヤムヤと繋げて呼ばないで下さい」」
「悪い悪い。で、なんだ?」
悪びれた様子のない彼に瓜二つな双子は揃って口を開いた。
「「大魔王様からお呼び出しです」」
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